元陸上幕僚長が提言「敵基地攻撃能力保有は急務」 現状では迎撃できない「極超音速ミサイル」
現時点で確実に守る手段はない
昨年10月、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長(大将)はテレビのニュース番組に出演し、旧ソ連が1957年に人類で初めて人工衛星の打ち上げに成功したことで国内に衝撃が走った「スプートニク・ショック」を引き合いに、「極めてそれに近いと思う」と、大きな懸念を表明した。超大国のアメリカが中国に兵器開発で後れを取っている現実と、自国の本土が安全保障上の脅威にさらされる事態など、すぐには想像しえなかったのだろう。
言うまでもなく、日本はこれら極超音速滑空兵器に対処できる高性能な地対空ミサイルを開発する必要がある。しかし、早期の発見は難しく、仮に迎撃システムを構築できても着弾前に破壊するチャンスはわずかしかない。その不利を補うには、先に「非現実的」と指摘した大量の迎撃ミサイルの配備しかない。つまり、極めて残念ながら、現時点でこの新兵器から日本を確実に守る手段はない――。
「探知」と「反撃」
有効な防御手段がない以上、日本が敵基地攻撃能力を持つのは当然のことだ。では、仮に敵基地へ攻撃を実施する場合はどのような手順となるのか。
まずは「探知」である。平時から対象国のミサイル関連施設の所在をはじめ、発射準備から発射に至るまでの兆候を正確に把握できる環境の整備が必要だ。これには情報収集、監視、偵察を担う偵察衛星(光学およびレーダー)や発射の瞬間を捉える早期警戒衛星(熱感知)、長時間滞空型の無人航空機(UAV)を配備し、さまざまな複合情報を獲得する対外情報組織ないし機関の整備で可能になる。
次いで「敵の防空能力の無力化」だ。自衛隊がミサイル関連施設などを狙って発射する長距離ミサイルやロケットが、敵の対空ミサイルや対空砲に撃墜されるのを防ぐには、事前に敵の防空レーダー網や対空部隊を潰しておく必要があるからだ。
これには一昨年9月に、アゼルバイジャンがアルメニアを攻撃した例が参考になる。アゼルバイジャン軍は安価な旧ソ連時代の複葉機を囮にしてアルメニア軍の防空網を起動させ、“目を開いた”敵防空レーダーと対空ミサイルに長時間滞空型ドローンで自爆攻撃を仕掛けた。結果、アルメニア国内の防空レーダーや対空部隊が破壊・無力化されたのである。
そして「反撃」である。発射準備に入ったミサイルや、発射に関連する指揮・通信施設が標的となる。長時間滞空型の攻撃ドローン、地上発射型の長射程ミサイルやロケット、さらには戦闘機に搭載される長射程空対地ミサイルなどが反撃の主体となる。この際、空自機がミサイルを発射する空域で航空優勢を獲得していることも重要だ。
最後は反撃成果の「確認・評価」だ。ミサイルやロケットが目標に命中したか、敵にどれだけの損害を与えたかを確認し、正確に評価する必要がある。情報収集衛星や長時間滞空型偵察ドローンで情報を収集し、それをもとにした詳細な確認と評価を経て、反撃の続行か、或いは外交交渉に移るのかを判断するのだ。
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