元陸上幕僚長が提言「敵基地攻撃能力保有は急務」 現状では迎撃できない「極超音速ミサイル」
半世紀以上前の懸念が現実化
個別的自衛権については、昭和31年2月29日の衆議院内閣委員会において、鳩山一郎総理(当時)が次のように答弁している(代読)。
〈わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います〉
これは、「敵基地攻撃能力の保有」が憲法で認められた権利だと明言しているのである。いまや日本の安全保障環境はエスカレートする隣国の無法により、危機的状況を迎えつつある。図らずも半世紀以上前に国のトップが国会の場で示した憂えるべき状況が現実化しているのだ。にもかかわらず、この憲法で保障された自衛のための権利とその行使について、国民的な理解が深まっているとはいえない。
例えば、先の自民党総裁選挙で最有力候補と見られた河野太郎氏は、敵基地攻撃能力を「昭和の概念」と突き放して議論しようともしなかった。昨年11月に立憲民主党の代表に就任した泉健太氏も、テレビ番組で「敵基地攻撃というもので何を防ごうとしているのか。これはちょっとよくわかりません」と臆面もなく言い放っている。
公党の要職にあり、総理の座を狙う国会議員でさえ、認識と理解はこのレベルでしかない。だからこそ、我々は国家の防衛に大いに資する敵基地攻撃能力について知っておく必要がある。
見つかった防衛力の欠陥
端的に言えば、敵基地攻撃能力は「撃つなら撃ってみろ。必ず撃ち返すぞ」と相手国の領域内に反撃する力を持ち、その行使を厭わない意志を示すことだ。相手の攻撃意図を抑止できるほど、強力で確実な報復手段を持つことともいえるだろう。
この敵基地攻撃能力を保有する必要性がにわかに指摘され始めた背景には、周辺国がもたらす弾道ミサイルによる危機の増大や、数年の間に世界的に大きな脅威と化した「極超音速ミサイル」と呼ばれる新型兵器に対する防衛力に欠陥があることが分かったからだ。
現状では、弾道ミサイルに対する我が国の防衛態勢は、(1)海上自衛隊のイージス護衛艦が発射するSM3ブロックIIAミサイルによる高高度での迎撃、(2)航空自衛隊に配備されている地対空ミサイル(PAC3)による迎撃という二段構えで対処が可能とされている。
仕組みを簡単に説明すると、発射された弾道ミサイルはロケット噴射によって上昇していく。そして一定の高度に達すると、放物線を描くように目標に向かって軌道を変えず落下してくる。その時の速度は、射程が1800キロほどの弾道ミサイルならマッハ11.8(秒速約4千メートル)という極超音速に達する。「極超音速」とは音速(マッハ1=秒速約340メートル)を大きく上回る速度のことで、一般にマッハ5(秒速約1700メートル)以上を指す。あまりの速さにイメージしにくいが、北朝鮮で発射されれば、東京にはわずか10分前後で到達する。
ただ、弾道ミサイルは軌道の変化がない。つまり、目標到達までに通過する位置が予測できるため、自衛隊の迎撃システムで撃破することが可能なのだ。
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