メキシコで“マフィアの拷問焼き”を頂く…ルポ漫画「鍋に弾丸を受けながら」 原作者に聞く危険地帯グルメの魅力

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食文化の違い

 料理を通じ、日本と海外との食べ物に対する感覚の違いもわかってくる。この気づきも作品の魅力だ。

「日本人にとってサンドイッチは手で持って食べられるものですが、世界全体では案外そう考えている人は少ない。手が汚れるというか、具材などがボトボト落ちるものという前提が割とあるんです。海外はパンについても、パサパサしたものという感覚があり、小麦の匂いがするようなパンに肉汁であったり、何かに浸した方が美味いという発想があります」

 作中、青木さんのアメリカの友人であるデヴィットさんが朝食プレートの目玉焼きの上にメイプルシロップをかけるシーンも出てくる。日本人ならぎょっとする場面だ。

「目玉焼きだけでなくソーセージやパン、ポテトにもかける人もいます。僕ら日本人の考えている『甘さ』とは違う感覚なのかもしれません。逆に海外の人は、固定概念として『豆はしょっぱくして食べるもの』というのがあるので、日本のあんこについて『豆を甘くするなんて信じられない』といいます」

『鍋弾』では料理だけでなく、その土地ならではの風景や考えも描かれる。橋に女性用ブラジャーがくくりつけられた「ブラ・ヒル」と呼ばれる場所に、マフィア同士の抗争で人が住まなくなった村。ブラジルでは夕日を見ながら、独特の死生観「サウダージ」を理解する。作品を読むことで、コロナ禍でなかなか味わうことのできない旅情を得られる。

青木さんと海外の友人たちとの交流も見どころだ。青木さんは専門誌に寄稿したことがあるほどの釣り好きで、趣味を通じて海外の友人を増やしてきた。漫画に登場するのは男性ばかりだが、青木さんには「全員美少女に見えている」ため、美女や美少女として描かれている。このため危険地帯を描きながらもポップさにあふれている。

「自分たちが漫画になったことはみんな知っていて、軽く説明をするだけでわかってくれたんですけど、オレゴンのデヴィットさんは『僕の船がかっこよく描かれていてうれしいのだが、なぜ僕や君らしきキャラクターが女性なんだい』と聞かれました(笑)」

コロナが明けたら食べたい「バターバーガー」

 コロナ禍の中、海外旅行に行くのは難しく、作品づくりにも影響は出ている。

「コロナもあり現状で題材となるネタは3巻分ぐらいで限界だと思います。ただ『鍋弾』はノンフィクションなので、うそは書きたくない。もともとこういう漫画を書こうと思って旅をしていたわけではありません。もし今、海外に行ってしまうとどうしても自分から漫画のネタを探しちゃう気もするので、逆にいいのかなとも思っています」

 青木さんが、コロナが明けたら行きたい場所として挙げたのがアメリカ・ウィスコンシン州だ。作品にも登場する友人のピエロさんが購入した釣り船を見に行くのが一番の目的だが、そこにはまた未知の料理があるのだという。

「ウィスコンシン州にはバターバーガーという料理があるんです。ここは酪農のメッカなので、バターが死ぬほど取れる土地なんです。そのせいで恐ろしいほどの量のバターを料理に使う。ひき肉のつなぎにバターを入れて、そのパティを焼くのにバターを使い、バンズもバターで焼いて、さらにバターを塗ってパティを挟む。お皿の上に溶けたバターの池が1センチできるくらいが正しいレシピらしいです。体に悪いでしょうけれど、食べてみたいですね」

徳重龍徳(とくしげ・たつのり)
ライター。グラビア評論家。大学卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。記者として年間100日以上グラビアアイドルを取材。2016年にウェブメディアに移籍し、著名人のインタビューを担当した。現在は退社し雑誌、ウェブで記事を執筆。個人ブログ「OUTCAST」も運営中。Twitter:@tatsunoritoku

デイリー新潮編集部

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