宝田明さん逝去 “ダムダム弾で撃たれた傷が今も…”昨年語っていた「壮絶戦争体験」

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尊敬を集める国に

 日本の人口が約9千万人だった時代に「ゴジラ」は961万人を動員する大ヒットを記録します。終戦直後の日本では戦争の傷跡が生々しく記憶され、原爆に対する意識も高かったわけです。「ゴジラ」は商業映画、怪獣映画ではあるけれど、作品の底に流れているのは日本人だからこそ世界に訴えることのできるテーマだった。それを忘れてはいけないと思います。

 多くの民間人が犠牲になっているコロナ禍はまさに戦争に比肩する有事でしょう。ただ、戦争を知る世代の人間としては、どうしても危機感の欠如を感じてしまいます。東西の冷戦は終結したものの、米中の新たな冷戦が始まりました。中国の覇権主義的な動きに加え、中東情勢も悪化の一途を辿っている。本来であれば、各国が利権や兵器製造のためではなく、伝染病を撲滅するためにカネをかけるべきだと思います。

 それなのに日本のテレビをつければ、食べ歩きや大食いの番組ばかり。コロナで大切な家族や仕事を失って、今夜の食事にも困っている人たちの声は全く届いていない。ドラマにしてもバラエティにしても、日本のテレビ番組には幼児性しか感じられません。もっと大人で、利口な国民になるべきだと感じます。尊厳に満ちた、世界から尊敬を集める国にならないと。

 正直に申し上げて、エンターテインメント業界も厳しいですよ。僕らが進めていた企画はほぼ全て潰れてしまいました。公演が中止に追い込まれると、俳優だけでなく裏方として支える何百人ものスタッフが路頭に迷ってしまう。それでもコロナ禍が収まることを願って準備を進めている。民間人が否応なく巻き込まれてしまうという意味で、戦争とコロナ禍は似ています。そうであればこそ、この困難も歯を食いしばって乗り越えるしかないんです。

宝田明(たからだあきら)
俳優。1934年、朝鮮・清津生まれ。2歳で満州国・ハルビンに渡る。日本に引き揚げ後の53年、東宝ニューフェイス第6期生として俳優業を始める。「ゴジラ」「放浪記」など出演作多数。「マイ・フェア・レディ」などで舞台俳優としても活躍。

週刊新潮 2021年6月10日号掲載

特集「『宝田明』インタビュー コロナ禍で甦った凄絶『戦禍』『引き揚げ』体験」より

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