事件はセンバツで起きる…「安楽の772球」、「連続延長引き分け再試合」でルールが変わった

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2試合連続延長15回引き分け再試合

 球数制限同様、選手の体調面を考慮したタイブレークも、14年のセンバツ2回戦、桐生第一vs広島新庄が1対1で延長15回引き分けになったことがきっかけだった。

 翌日の再試合は桐生第一が勝利したが、準々決勝で敗退した同校が決勝まで勝ち進んでいた場合、引き分けから5日連続試合が組まれる強行日程になったことから、大会後、高野連はタイブレーク導入を検討した。だが、球史に残る名勝負の多くが延長戦絡みの試合だったこともあり、早急に結論は出なかった。

 そんな矢先、17年のセンバツで2試合連続延長15回引き分け再試合という“前代未聞”の珍事が起きたことが事実上、タイブレーク導入の決め手となる。

 同年3月26日の第2試合、福岡大大濠vs滋賀学園は1対1、第3試合の福井工大福井vs健大高崎も7対7でいずれも延長15回引き分けに。再試合は2日後に行われ、福岡大大濠、健大高崎がそれぞれ勝利したが、変則日程を組んだ結果、準決勝前日の休養日がなくなる。両校が決勝まで勝ち進んだ場合(いずれも準々決勝で敗退)、再試合から4連戦というハードな日程になっていたことが問題視された。

 この時点で甲子園出場権がかからない春の地方大会ではすでにタイブレークが導入されていたが、センバツ後、高野連は全国の参加連盟からのアンケート結果を受け、甲子園でも18年からタイブレークの導入を決めた。当初、適用外だった決勝戦も、「決勝再試合はかえって非情」という理由で、昨年から決勝戦もタイブレークを行うようルールが変わっている。

“森ルール”と呼ばれた新ルール

 一方、日本球界にコリンジョンルール導入の流れを加速させる“先駆け”となったといえる試合がある。13年のセンバツ3回戦、大阪桐蔭vs県岐阜商だ。コリンジョンルールとは、捕手と走者の接触プレーによる負傷を防ぐ目的で作られた規則だ。

 1点を追う大阪桐蔭は9回2死一、二塁、福森大翔の中前安打で二塁走者・峯本匠が同点のホームを狙ったが、すでにセンターからの返球が捕手・神山琢郎のミットに収まっていた。峯本は「同点に追いつきたい」一心から神山に激しくタックル。直後、ミットからボールがこぼれ落ちた。だが、橘公政球審は危険なプレーとして守備妨害でアウトを宣告。同点は幻と消え、一転ゲームセットとなった。

 実は、前年9月に行われた「18 U世界選手権」の米国戦で、大阪桐蔭の捕手・森友哉(現西武)が2度にわたって本塁上で体当たりされた事件を受け、センバツ直前の13年2月にアマの内規「危険防止」に「ラフプレー禁止」の項目が新たに加えられたばかりだった。

 当事者にちなんで“森ルール”と呼ばれた新ルールは、皮肉にも、森が主将を務める大阪桐蔭の試合で適用第1号となり、同校の「春夏春3連覇」の夢を断ち切る結果を招いた。

 そして、翌日の毎日新聞が「全国大会、しかも勝敗を決する場面で厳正にルールを適用したことは、先例として球界全体に影響を与える可能性がある」と報じたとおり、NPBでは16年からコリジョンルールを導入している。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮編集部

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