事件はセンバツで起きる…「安楽の772球」、「連続延長引き分け再試合」でルールが変わった
「投手にとって過酷な負担」
昨今の高校野球は、タイブレークや申告敬遠、球数制限など次々に新ルールが導入されているが、中にはセンバツ開催中の出来事がきっかけになったものもある。新ルールにつながった“事件”を振り返ってみよう。【久保田龍雄/ライター】
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昨年のセンバツから導入された球数制限は、2018年夏の大会で金足農・吉田輝星(現日本ハム)が予選で1517球、甲子園で881球投げたことがきっかけとされている。だが、球数問題はそれ以前から論議の的になっていた。
1991年夏の甲子園で773球を投げ抜き、投手生命を絶たれた沖縄水産・大野倫の悲劇を機に93年から投手の肩・肘関節検査が導入された。その後、球数制限へと移行する過程で社会問題としてクローズアップされたのが、2013年のセンバツ準優勝投手、済美・安楽智大(現楽天)である。
安楽は1回戦の広陵戦で延長13回、232球を投げ抜き、2年生投手ではセンバツ史上最速の152キロを計時したが、米の野球専門誌ベースボール・アメリカは「米国では、16歳の投手は232球を1ヵ月でも投げない」と酷使を指摘した。さらに、2回戦の済々黌戦でも安楽が159球完投すると、CBSスポーツ電子版が「中3日で391球は、投手にとって過酷な負担」と報じ、日本国内でも球数論争が盛んになった。
“安楽の悲劇”から6年
そんな騒ぎのなか、安楽は準決勝までの4試合で663球を一人で投げ抜いたが、4月3日の決勝、浦和学院戦では、3連投の疲れから最速142キロにとどまり、120キロ台まで球速が落ちた。
5回に滅多打ちされ7点を失った安楽は、上甲正典監督の「代わるか?」の問いかけに首を振って6回も続投したが、連続死球などで2失点。ついに力尽き、「最後までマウンドを守れず悔しいです」と号泣した。5試合での球数は772球に達していた。
1対17と大敗した試合後、作家の乙武洋匡氏が「なぜ球数制限の導入を検討しないのだ」と問題提起。当時レンジャーズのダルビッシュ有も「出場選手登録を25人にして、学年別に球数制限がいいかと」と乙武氏にツイートで提案するなど、球数制限をめぐる論議が活発化した。15年1月には桑田真澄氏(現巨人投手チーフコーチ)も「タイブレークを導入するくらいなら、球数制限を導入すべき」と提言した。
こうした流れを受け、高野連は19年11月の理事会で、大会期間中「1週間で500球以内」の球数制限を決定(実施は21年のセンバツから)。“安楽の悲劇”から6年が経っていた。
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