選抜高校野球“滑り込み出場”から決勝戦に駆け上がった「幸運なチーム」

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「打倒横浜」が合言葉

 ギリギリ選出のノーマークにもかかわらず、甲子園で1戦ごとに強くなっていったのが、99年の水戸商だ。前年秋の関東大会では、準々決勝で横浜に0対2と完封負け。敗退4チームの中からシード校で未勝利だった桐生第一、コールド負けの甲府工が消え、翌年に学校創立100年目を迎える真岡との争いの末、試合内容の比較などから最後の5枠目に滑り込んだ。

「打倒横浜」を合言葉に乗り込んだ甲子園。1回戦は先発全員の13安打で、岩国を4対2で下すと、2回戦では出場32校のエースの中で最も遅い最速125キロの右サイド・三橋孝裕が打たせて取る投球に徹し、強打の日大三を完封した。

 準々決勝の三重海星戦も2点を追う6回に4安打を集中して逆転し、準決勝の今治西線では、打線が15安打と爆発して初の決勝進出を果たした。

「目立った素質のない選手を鍛え上げる」という全員野球を標榜する、橋本實監督の采配が打つ手打つ手がピタリと当たり、決勝までの4試合で2失策の堅守も快進撃の大きな力になった。

 決勝の沖縄尚学戦は、3連投の疲れで制球が甘くなった三橋が7失点と打ち込まれ、大旗には届かなかったが、「閉会式はむしろ、うれしさで泣きそうになりました」(外山直行主将)と全力を出し切った末の悔いなき敗戦だった。

「最後まで胸を張っていろ」

 絶望的にも思える東京3位から幸運な逆転選出を経て、準Vの快挙を達成したのが、10年の日大三だ。前年秋の都大会準決勝で、帝京に4対5と惜敗した日大三は、この時点でセンバツ切符を逃したかに見えた。

 ところが、決勝で帝京が東海大菅生に13対1と大勝したことが、ひと筋の光明をもたらす。この結果、東京の2校目候補に浮上した日大三は、関東5校目候補の桐蔭学園と“最後のイス”を争うことになった。

 守備力は両チーム互角ながら、投手力は「主戦(山崎福也)、控えとも日大三が上」と評価され、帝京戦で148キロ右腕・伊藤拓郎から12安打を放った打力も決め手となって、8年ぶり17度目のセンバツ出場が決まった。

 ギリギリ選出ながら新チーム以来、24勝3敗1分と安定した強さを誇る日大三は、1回戦で山形中央に14対4と大勝したあと、2回戦で21世紀枠校の向陽に苦戦しながらも3対1で逃げ切り。準々決勝では敦賀気比を10対0と寄せつけず、準決勝の広陵戦では、雨が激しくなった8回に一挙10得点で逆転。38年ぶりの決勝進出を決めた。

 決勝では延長12回に痛恨のエラーに泣き、興南に5対10で敗れたが、小倉全由監督は「みんなよくやった。最後まで胸を張っていろ」と東京3位からの大躍進に賛辞を惜しまなかった。

 今年の選抜では、どのチームに幸運の女神がほほ笑むだろうか、球児たちの熱い戦いに注目したい。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮編集部

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