もふもふした菅田将暉の好演を楽しむ「ミステリと言う勿れ」 犯人側も丁寧に描いた良作

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 疑問を感じたら、口に出さずにはいられない。丁寧な言葉でまくしたてるものの、人によっては気分を害する物言い。同調や迎合はしないが、洞察力は鋭く、他人の表に出ない心情を察知する能力も高い。とにかくようしゃべる主人公。「ミステリと言う勿(なか)れ」の話だ。

 今期のドラマで最も人気、かつ話題にのぼっている。理路整然としゃべり倒す主役・久能整(ととのう)を、原作より濃い顔の菅田将暉が好演。菅田が常々思っていることがいちいち膝を打つというか、納得のいく見解なので、毎週ねっとり観ている。名言をまとめたいが長いので割愛。そもそも漫画原作の言霊が良質なのだと後で知った。ウザイほど饒舌なのに暑苦しくないどころか、心の襞に深く入り込んでくる。

 映像はポップでテンポもいい。もじゃもじゃ頭にマフラーぐるぐる巻きで、全体的にもふもふした菅田も好印象。菅田に頼りっぱなしの刑事たちも安定のキャスティング。男尊女卑の警察署で心折れていたが、菅田に感化されて刑事魂に目覚めるのが伊藤沙莉。顔がまた一段とやかましいなと思っていたが、原作の表情を忠実に再現していたのが尾上松也。ごめん、松也。その顔、原作リスペクトだったのね。切れ者だが誤認逮捕で冤罪を生んだ経験がある警部の筒井道隆も適温。

 毎回のゲスト俳優には手練れを投入。素晴らしいのは、それぞれの見せ場をじっくり映すところ。何もかもポップにして台無しになるドラマが量産されている昨今、この作品は肝になるシーンが情緒的。菅田が真相を解明するのだが、犯罪に至るまでの過去の映像の入れ方が秀逸だと思った。

 初回の罪を犯した刑事・遠藤憲一は、菅田に看破された時の口の渇きと慟哭が実によかった。血流や動悸まで伝わってきた(ように私は感じた)。第4話では、記憶を失った爆弾魔・柄本佑の自己顕示欲が妙に物悲しかった。あれ? 私、犯人側に寄り添っちゃっている? 第6・7話の放火&殺人犯の岡山天音にも、心を寄せてしまったしなぁ。

 もちろん、快楽や利己を目的とした忌々しい殺人犯も登場するが、情緒的と感じてしまうのは「虐げられた人」や「奪われた人」の罪を犯すに至るまでの心情描写が丁寧だからだ。

 うっすら主題も見えてくる。虐待やいじめ、理不尽や不公平によって心が頑なになった人に、温かく柔らかい声を届ける。そんな印象。菅田も胸元にケロイド状の傷があり、泣きそうなときは体を丸めるシーンがある。彼もまた、虐げられて奪われた人なのだろう。

 主人公が鋭い洞察力で事件を解決するドラマは星の数ほどあるが、たいていは犯行動機や手口が雑(ま、世の中の犯罪は基本的に雑で短絡的な人間が起こす)。でもこのドラマでは犯人もひとりの人間として丁寧に描かれる(扱われる)。ある種この国の、弱者を叩く病を示唆しているような気もする。それでいて冗長にならず、思わせぶりな仕掛けにも頼らず、想定外と驚愕の展開がある。心に響く言霊と高い問題意識とエンタメ性、三拍子揃った良作だ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年3月17日号掲載

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