中村喜四郎 ドキュメンタリー映画で明かされる逮捕後、140日間“完黙”した真意

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 近年、現職の政治家を取り上げたドキュメンタリー映画が話題になっている。その嚆矢は、2020年公開の「なぜ君は総理大臣になれないのか」(大島新監督)だろう。立憲民主党の小川淳也議員が家族の協力を得て政治家として成長していくさまを見て、私は「鬼滅の刃」で主人公の竈門炭治郎が強くなっていく姿と重ね合わせた。【武田一顕/ジャーナリスト】

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 筆者も縁あって、現職政治家のドキュメンタリー映画を監督することになった。今月18日から東京のヒューマントラストシネマ渋谷で上映される「完黙 中村喜四郎~逮捕と選挙」は、「鬼滅の刃」になぞらえるとすれば鬼の側の物語だ。マスコミ嫌いでムショ帰り。国会議事堂の中では、記者だけでなく他の議員も道を開ける――。そんな不気味さを持つ男は、なぜ鬼となったのか。私は今の時代だからこそ描いておかねばならないと思った。

 1976年の初当選から14連勝。実際、中村喜四郎は、「選挙の鬼」と呼ばれてきた。1990年の8期目の出陣式には2万4000人もの支持者を集め、向かうところ敵なし。しかし、彼という人間を知れば知るほど、むしろ薄氷の勝利を重ねているという印象が強まる。

無所属ながら初出馬で当選

 中村喜四郎は、参議院議員だった父・喜四郎(先代・1910~1971)と母・登美(1916~2016)の姿を見て政治家を志す。猛女だった母の後押しで田中角栄(1918~1993)の秘書を務めた後、1976年の「ロッキード選挙」と呼ばれる衆院選に初出馬。その経歴と無所属という逆風にもかかわらず、旧茨城3区でトップ当選を果たした。まさに鬼としての頭角を現した瞬間だ。

 なお、当時すでに人気絶頂だった石原慎太郎(1932~2022)も、ヘリコプターで茨城に駆け付けて応援演説を行ったという。慎太郎は角栄を強く批判していたにもかかわらず、その秘書だった喜四郎を応援した。無所属で出馬したその反骨精神に、慎太郎は自分自身を重ねていたのではないだろうか。

 その後、喜四郎は自民党に入党し、田中派から経世会(竹下派)入り。派閥のドン・金丸信(1914~1996)が「小沢(一郎)の次は中村だ」と口にするほどのホープとなる。

 1989年には40歳の若さで科学技術庁長官に就任し、初の戦後生まれの閣僚として大きな注目を集めた。92年には、バブル崩壊直後とはいえまだ全国で建設ラッシュが続く中、建設大臣となる。

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