老化の原因にもなる「ゴースト血管」とは 第一人者がアンチエイジングのヒントを伝授
人間にとって老いは避けられない宿命だが、そこに大きな影響を及ぼすのが“ゴースト血管”。ゴースト化した、つまりは本来の役割を果たせない毛細血管が老化や病気をもたらすのだ。血管研究の第一人者・高倉伸幸氏が、健康とアンチエイジングのヒントを伝授する。
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皆さんは〈人は血管とともに老いる〉という言葉をご存知でしょうか。
これは、19世紀から20世紀初頭にかけて活躍し、現代医学の発展に多大な功績を残した医師、ウイリアム・オスラーの言葉です。ここで言う“血管”とは動脈を指しています。人間が老いると循環器系の病気や動脈硬化などのリスクが高まるため、オスラー博士は「老化=動脈の老化」と定義したわけです。
この名言に倣って、21世紀に生きる私は、次のように提言したいと思います。そう、〈人は毛細血管とともに老いる〉と。
実際、加齢や不摂生な生活習慣によって、毛細血管が“ゴースト血管”になると、人体にさまざまな弊害をもたらすことが分かってきました。老化や加齢に伴う病気のメカニズムを知り、予防する術を探る――。ゴースト血管は、その“カギ”と呼ぶべき存在なのです。
ゴースト血管への理解を深めるために、まずは、陰ながら人間の健康を支える毛細血管の役割について説明しましょう。
人体がゴーストタウン化
皆さんもご存知のように、人間の全身には動脈や静脈、細動脈、細静脈、そして、毛細血管といったさまざまな血管が張り巡らされています。一般に血管の劣化に起因する病気としては動脈硬化が有名ですが、私が主に研究しているのは全身の血管の95%以上を占める毛細血管です。
毛細血管は動脈から運び込まれた酸素や栄養素を全身に行き渡らせ、二酸化炭素や老廃物を回収して静脈に送るという重要な役割を担っています。動脈や静脈は、いわば大きな幹線道路。毛細血管は、そこから枝分かれした県道や市町村道などの小さな道路をイメージしてください。どれだけ立派な幹線道路が走っていても、自宅までの道が塞がれていたら必要な物資が届かず、ゴミを回収することもできません。道路が寸断され、社会から隔絶された街は、遠からずゴーストタウンとなってしまいます。
同じように、毛細血管が本来の働きを果たせなくなると、まさに人体がゴーストタウン化する。要は、血管はあるのに、きちんと血液が流れていない状態で、放置すればやがて血管自体が消えてしまう。私は10年ほど前に、それを「ゴースト血管」と命名し、警鐘を鳴らしてきました。最大の問題は、このゴースト血管が中高年を悩ませるさまざまな病気や症状を引き起こすことにあります。
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