なぜ日本だけ30年も賃金が上がらない? ビッグマック、賃金ともに韓国以下に

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アニメ業界の低賃金問題

 さて、ここまでの“負の連鎖”をたどっていけば、「激安大国ニッポン」の実像が朧げながら見えてきたのではないか。

「激安グルメ」を愛し、「激安スーパー」を称賛して、「もっと安く!」「もっとお得に!」と値下げに踏み切るよう企業を鼓舞しているが、それがまわりまわって、自分たちの賃金までも「激安」にしてしまっている。給料が上がらないので、消費者は「もっと安いものを」と激安への依存を強める。企業側は「出血受注」を続けていつまでたっても賃上げできないので、労働者(=消費者)はどんどん貧しくなっていく。今の日本人は「安さの無間地獄」ともいえる悪循環の真っ只中にいるのだ。

 もちろん、これはあくまで日本人にとっての話なので、外国人からすれば全く別の見え方になる。わかりやすいのがアニメだ。日本のアニメは世界的に高い評価を受けているが、その品質を支えるアニメーターが今、続々と中国のアニメ会社へ転職している。一般社団法人日本アニメーター・演出協会の19年の調査では、アニメーション制作者の平均年収は440万円で正社員は14%に過ぎず、新人アニメーターが従事する「動画職」にいたっては平均年収125万円。一方、「日本経済新聞」(21年6月25日)によれば今、中国では「2年以上の3Dアニメ制作経験者」は日本円で月収34万~68万円で募集されている。中国のアニメ会社からすれば、優秀な技術者を、低賃金で買い叩ける日本は「激安天国」なのだ。

「安さの無間地獄」

 今、デフレ脱却を掲げる岸田政権がさまざまな施策を表明しているが、これまで述べたような産業構造にまで手を付けるようなものではないため、残念ながら「安いニッポン」はまだ続く。ただ、何よりも問題なのは、ほとんどの日本人がこの「地獄」にいることにそれほど危機感を抱いておらず、「こんな住みやすい国はない」などと喜んでいることだろう。「地獄も住み家」のことわざ通りだ。

 今日もどこかのテレビ局が「激安ネタ」を放送している。国民がそれに飛びつくことで、自分たちの賃金をさらに安くしていく。そして叫ぶ。「生活できないからもっと安くせよ」――。

 そんな「安さの無間地獄」で感じる我々の幸福は、夢かうつつか幻か。令和の世の悩みは深い。

窪田順生(くぼたまさき)
ノンフィクション・ライター。1974年生まれ。雑誌や新聞の記者を経てフリーランスに。事件をはじめ現代世相を幅広く取材。新潟少女監禁事件をルポし、第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞した『14階段』や、『死体の経済学』『「愛国」という名の亡国論』等の著書がある。

週刊新潮 2022年3月10日号掲載

特別読物「なぜ日本だけ30年も賃金が上がらないのか 『安いニッポン』の真因」より

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