なぜ日本だけ30年も賃金が上がらない? ビッグマック、賃金ともに韓国以下に
「出血受注」が常態化
では、大企業や政府支援の不足のせいでなければ、なぜ日本は「低賃金」なのかといえば、産業構造による悪影響が大きい。それは一言で言ってしまうと、「安売り競争を強いられる零細企業で働く人が圧倒的に多い」ということである。
日本企業の99.7%を占める中小企業のうち小規模事業者(製造業は従業員20人以下、卸売業・小売業・サービス業は従業員5人以下)が全体の約85%を占める。つまり、日本企業の9割近くは、家族経営や社員が2~3人といういわゆる「零細企業」であり、それぞれの産業内でその小さな会社が厳しい生存競争を繰り広げている、というのが日本経済の実態なのだ。
では、そうした環境で中小零細企業が、競合する企業と競り勝って仕事を受注するにはどうすればいいのかというと、「ダンピング」しかない。とにかく仕事を受けるために、赤字覚悟で価格を下げるという、いわゆる「出血受注」をしていくのだ。
もちろん、「下町ロケット」に登場するような唯一無二の技術を持つ町工場ならばそんな必要はないが、そういった企業はほんの一握り。一般の中小零細は「よそより安く請け負います」「もっと勉強します」と赤字覚悟で仕事を取りにいくしかない。
なにせこれまで見てきたように、日本は先進国のなかでもトップレベルの「値上げ」を嫌う民族である。建設業や製造業などはなおさらだ。下請け、孫請け、ひ孫請けという多重請負構造で下部にいくほど買い叩かれるので、「出血受注」が常態化している。
削るところは人件費しかないという実態
この問題の根深さは、「出血受注」という言葉自体が雄弁に語っている。これは朝鮮戦争特需で、とにかく仕事を請けたい企業が始めたものであり、当時、国会でも取り上げられるほど注目を集めた。この時に、日本人の頭に、「商売とは赤字覚悟で値下げすること」という常識が強烈に刷り込まれ、やがて高度経済成長期になると、スーパーなどの安売りで使われる「出血サービス」という言葉とともにその常識が定着していく。つまり、よくいわれる日本の奇跡的な戦後復興は「赤字覚悟の安売りカルチャー」が原動力になった側面もあるのだ。
ただ、この「出血受注」は中小零細企業で働く3220万人という従業者にとっては、かなり深刻だ。
中小零細が受注のために「血」を流すとしたら、具体的にそれは何か。原材料費や輸送費を圧縮するといっても、会社の規模的に限界がある。となると、削れる固定費はあそこしかない。そう、人件費だ。日本人の賃金が30年以上もまったく上がっていないのは、デフレや経済の停滞もさることながら、日本企業の約9割を占める中小零細企業が、赤字覚悟の「出血受注」を強いられている、という産業構造によるところも大きいのだ。
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