「恋せぬふたり」で好演、「岸井ゆきの」の魅力 “名バイプレイヤー”からヒロインへ

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役そのものを“生きる”タイプ

 あっさりとした顔立ちが彼女の特徴の1つ。だからこそ幅広い年齢を演じることができるのだ。髪型やメイクでまったく異なる印象を与えられるのは、女優としての強みである。20年にテレビ東京系で放送された連ドラ「浦安鉄筋家族」でも女子高生役を無理なく演じていた。

 ストイックに役柄と向き合い、役そのものを“生きる”タイプだというのも特長だ。15年12月公開の映画「友だちのパパが好き」で演じた、女子大生・箱崎妙子は印象的だった。周囲に翻弄されてイライラしている役で、作中で松葉杖を蹴り飛ばすシーンがあるのだが、それはアドリブだったという。15年6月公開の「ストレイヤーズ・クロニクル」で演じた薬物中毒の少女・三上悠里役も忘れられない。情緒不安定から奇行に走っていく様子を熱演。出番は少なかったが、観る者に強烈な印象を与えた。

 現時点での代表作は、19年4月に公開された映画2本目の主演作「愛がなんだ」だろう。出版社に勤めるマモル(成田凌)と出会い、一目惚れした28歳のOL・テルコを演じた。マモル中心の生活を送るテルコは彼からの着信には秒速で出るし、呼び出されると残業もせずさっさと退社してしまうほど猪突猛進、一心不乱に恋をしていた。だが所詮は“都合のいい女”でしかなかった。一筋縄ではいかない片想い、打算、恥、なけなしの切実さが交錯する本作で、岸井は気の強さと不遇な女性の演技が同時に求められる難しい役を好演。マモルとの食事の別れ際、彼から言われたあるひとことで彼女はものすごく切なくなってしまった。夜の路上を歩きながら突然ラップを口ずさんで言葉を吐き出し続け、感情を爆発させてしまうシーンは記憶に残る。あの場面でのテルコはもう周囲に人がいるとか、そういうことを考えられる状態ではなくなっていた。素直に傷ついた純度の高いその気持ちを岸井はぶつけたのである。初のアカペララップで観る側は度肝を抜かれたものだ。本作は独立系の低予算作品としてはあまり例のないロングランヒットを記録し、20年の第43回日本アカデミー賞で岸井は新人俳優賞を受賞している。

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