十津川警部を演じた俳優は全部で16名 ベスト・オブ・十津川警部は誰か
膵臓ガンのため91歳で死去した作家の西村京太郎さんは数々のヒット作を遺したが、最も愛されたのは「十津川警部シリーズ」ではないか。全ての在京民放キー局がドラマ化。計16人の俳優が十津川警部を演じた。その中からベスト・オブ・十津川警部を選んでみたい。
ファンの方ならよくご存じの通り、西村さんは『寝台特急殺人事件』(1978年)からトラベルミステリーを書き始める前は、社会派推理作家と呼ばれていた。
例えば地方都市の住民に対する思想コントールを描いた『盗まれた都市』(1978年)の場合、戦時下の日本に対する風刺が込められていると思われた。
「十津川警部シリーズ」にも社会派色がある。『十津川警部「オキナワ」』(2004年)での十津川警部は不公平な日米地位協定に憤りを隠さなかった。
また、極悪非道な犯人は決して許さなかったものの、やむにやまれぬ事情があって罪を犯した人間は憐れんだ。
十津川警部は頭脳明晰である一方、勇ましく、なにより情の人である。人間的魅力に満ちている。だから全ての在京民放キー局がドラマ化したのだろう。
歴代の十津川警部
ドラマ版の歴代十津川警部役を振り返り、ベスト・オブ・十津川警部を決めたい。まず演じたのは、この人たちだ。
■故・三橋達也さん【テレビ朝日系1979年10月20日放送「ブルートレイン寝台特急殺人事件」ほか】
■故・夏八木勲さん【日本テレビ系1981年10月6日放送「消えたタンカー」】
■宝田明(87)【TBS系1982年9月4日放送「特急さくら殺人事件」】
■若林豪(82)【同1983年4月9日放送「日本一周『旅号』殺人事件」ほか】
■故・天知茂さん【テレビ朝日系1984年7月14日放送「東北新幹線殺人事件」】
■故・石立鉄男さん【フジテレビ系1986年7月31日「展望車殺人事件」】
■小野寺昭(78)【フジテレビ系1987年1月9日放送「寝台特急『はやぶさ』の女」ほか】
■高橋英樹(78)【テレビ朝日系1990年7年17日放送「十津川警部の挑戦」ほか】
■故・渡瀬恒彦さん【TBS系1992年4月13日放送「札幌駅殺人事件」ほか】
■故・高島忠夫さん【テレビ朝日系1995年10月7日放送「特急ゆふいんの森殺人事件」】
■故・萩原健一さん【テレビ東京系2003年4月23日放送「日本一周『旅号』殺人事件」】
■神田正輝(71)【同2004年1月7日放送「寝台特急『はやぶさ』の女」ほか】
■高嶋政伸(55)【フジテレビ系2009年5月8日放送「人捜しゲーム」ほか】
■内藤剛志(66)【TBS系2017年1月23日放送「伊豆・下田殺人ルート」ほか)】
■船越英一郎(61)【テレビ東京系2020年5月25日放送「危険な賞金」ほか】
最初に十津川警部をドラマ化したのはテレ朝系の朝日放送で、演じたのは当時55歳の三橋達也さん。ダンディで中年の魅力に満ちた十津川警部だった。
相棒のカメさんこと亀井刑事に扮したのは故・綿引勝彦さん。「鬼平犯科帳」(フジテレビ系)で密偵・大滝の五郎蔵役を演じた人である。今になって思うと、随分とシブイ2人によってドラマ版の十津川警部は始まった。
1981年10月放送のテレ朝系の第4作「終着駅〈ターミナル〉殺人事件」から制作局はテレ朝に変わった。だが、三橋さんの十津川警部はそのまま。カメさんは故・愛川欽也さんに交代した。苦労人の人情派刑事で視聴者に親しまれた。
愛川さんが初登場した「終着駅――」はドラマ版の十津川警部で屈指の名作と評判高く、世帯視聴率も24.3%に達した(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。
ブレイク直前の風間杜夫(72)が演じた犯人が、上野駅や故郷・青森に向かう列車の中で、高校の同級生たちを殺す物語だった。犯人に同情の余地があった上、最後は犯人が自死を遂げるという衝撃的な展開だったこともあって、反響が大きく、その後も2度リメイクされた。
若林豪が演じたTBS系の十津川警部は表面上、一番厳しい人だった。例えば「下り特急『富士』殺人事件」(1983年10月)で、若手刑事たちが刑務所から出所してきた元刑事の橋本(近藤正臣、80)の応援をしようとすると、きつく叱り、一切関わることを禁じる。
若手刑事たちは十津川警部が薄情だと思い、幻滅するものの、警部の真意は違った。橋本に忍び寄ろうとする悪党たちを水面下で一網打尽にしようと考えていた。やはり内面は温かかった。
若林版の十津川警部シリーズの作風はダーク。ハミングのテーマソングも暗かった。犯罪の裏にある欲や嫉妬をストレートに表現した。半面、それが魅力でもあった。制作したのは大映テレビ。人間の醜さを強調して描く同社のカラーが鮮明に表れていた。
この作品で平刑事の石毛に扮した船越英一郎は37年後、テレ東系の「危険な賞金」(2020年5月)で十津川警部役に昇格した。犯人への憎悪を隠さない熱血漢だった。
親子で十津川警部に扮したのは高島忠夫さんと高嶋政伸。もっとも、高島さんは体調不良で休養していた三橋さんのピンチヒッターで、テレ朝系「特急ゆふいんの森殺人事件」(1995年10月)しか出ていない。主演も高島さんではなく、カメさん役の愛川さんが担った。
政伸がフジ系「人捜しゲーム」(2009年5月)で初めて十津川警部に扮したのは42歳の時。ほかの十津川警部と比べると、かなり年下だが、若き日の十津川警部という設定だった。
なので、警視庁内のデスクにとどまらず、ほぼ全ての現場に出向いた。カメさん役は20歳以上年上の古谷一行。さすがにまるで親子だった。
ちなみに小説版の十津川警部は『黙示録殺人事件』(1983年)以降、一部作品を除き、年齢は40歳で固定されている。政伸が42歳で演じても矛盾はなかった。
だが、どうしても「十津川警部は50歳前後かそれ以上」というイメージが強い。十津川警部を初めて演じ、成功させた三橋さんを始め、50代、60代で初演する人ばかりだったからだろう。なお、十津川警部は「大卒」「ノンキャリア」である。
最もソフトだった十津川警部はテレ東系「寝台特急『はやぶさ』の女」(2004年1月)などの神田正輝に違いない。小林稔侍(81)が演じたカメさんに全幅の信頼を寄せ、捜査の多くを任せて、自分は警視庁内での後方支援が中心だった。もちろん部下を叱ったりはしなかった。
十津川警部も犯人役もやったのは石立鉄男さん。さすがは演技派で知られた人である。フジテレビ系「展望車殺人事件」(1986年7月)で正義感の強い十津川警部に扮したと思ったら、渡瀬恒彦さんが十津川警部だったTBS系「金沢加賀殺意の旅」(2005年7月)では姑息な犯人を演じた。下半身などが不自由だと偽り、それで周囲を油断させ、殺人を犯した。
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