ロシアで強まるメディア規制 こっそり取材を続ける日本人記者の悩みは「盗聴」と「金欠」
開戦後しばらくは、テレビをつけるとモスクワ支局からの中継がよく流れていた。だが、数日前から一斉に止んだ。4日、ロシア議会で、海外メディアを含めた言論統制を強化する法案が可決されたからである。いま、日本メディアのモスクワ支局では、「迂闊な動きをしたら身の安全が守れない」(某社外信部)という緊張感の中、各社ギリギリの体制で取材を続けているという。
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消えた【モスクワ】クレジット
今後は外国人であっても、今回の軍事行動に関して「虚偽情報」を拡散した者には、最大15年の懲役や禁錮などの刑が科される可能性がある。ロシア政府は今回の軍事行動を「特別軍事活動」と呼び、「侵攻」や「戦争」と表現した自国メディアを次々と閉鎖に追い込んできたが、今回の法改正で、言論規制が海外メディアにも及ぶ可能性が高まったのだ。
「これを受け、イギリスの公共放送のBBCやアメリカのCNNがいち早く、ロシア国内での取材活動を一時停止すると発表しました。日本メディアも、はっきりアナウンスを出したのは朝日と日経くらいですが、全社、テレビならば中継を取りやめる、新聞ならば【モスクワ】クレジットを外すなどの対応をしています」(前出・外信部記者)
8日、BBCは一転してロシアでの報道活動を再開し、「国際女性デー」の特派員レポートを放送した。「慎重な検討の結果、再開した」というコメントも出したが、こうした動きに対しても各社、神経をとがらせている。
ロシア人スタッフの安全が一番心配
「そもそもBBCはロシア国内向けの放送も行なっており、日本人向けの報道をしている我々と一概に比較はできないんです。実際、日本メディアに対して、いちいちロシア当局が文句を言ってくるのか懐疑的な見方もあります。とはいえ、7日には日本が『非友好国』に指定されたばかり。万一、記者たちの身に危険が及んだらと考えると、慎重にならざるを得ない。実はもっとも心配しているのは、現地で翻訳やコーディネートを手伝ってくれるロシア人スタッフが拘束されてしまうこと。彼らが懲役刑にでも処せられたら、大変な責任問題です。日本人記者はせいぜい国外退去処分くらいでしょうから」(テレビ局記者)
いまのところ、ほとんどの社は現地スタッフを残したまま、ギリギリの“ステルス取材”を継続中だ。表向きは取材していませんという体を取って、実際はモスクワから原稿やメモを送り、クレジットを【ポーランド】や【ワシントン】だけにしてごまかすのだ。
とはいえ、前例のない規制である。どこまで粘れるか、何がアウトになるのか、各社判断に苦慮している。支局との連絡方法も悩みの一つ。
「昔から、モスクワ支局には盗聴器がつけられているというのは、モスクワ勤務経験のある記者たちにとっては常識。最近は、テクノロジーが進んでスマホが盗聴されていると言われています。確かに、現地の記者に電話をすると、明らかに変なんですよ。プツプツ変な音を聞こえてきたりして……。気軽に電話できない状況です」(前出・外信部記者)
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