“犬の口輪”をはめて国会へ… ルーマニアの超過激「反ワクチン」議員の正体

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 欧州を含む西側諸国は新型コロナのワクチン接種率が高く、非接種者らに対して日本円で100万円近くの罰金や逮捕などの厳しい措置がとられることもある。一方、東欧の旧共産圏諸国の接種率は圧倒的に低い。ルーマニアは東欧で2番目に接種率が低い国で(トップはブルガリア)、一人当たりのコロナ死亡率は世界トップクラスである。ジョンズ・ホプキンス大学が集計したデータによると、2020年初頭のパンデミック発生以来、人口約1930万人のうち270万人以上のコロナ感染者が確認され、6万3000人以上が死亡している。そんなルーマニアで今、一人の女性議員が国民の人気を集めている。

Facebookの女神様

 ルーマニアの政治家といえば、共産主義体制下で四半世紀にわたって独裁体制を敷いたニコラエ・チャウシェスク元大統領(1918~1989)が有名だが、ひょっとするといまや東欧では、ダイアナ・ソソアカ氏(46)のほうが馴染み深いかもしれない。弁護士出身の国会議員である彼女は、強固な「ワクチン接種反対派」として知られる。もともと国会議員になる気はなかったが、ソーシャルメディアでの過激発言が人気を呼び、勢いで選挙に立候補、当選したという経緯の持ち主だ。

 彼女のFacebookは圧倒的なフォロワー数を誇る。議会のやりとりの様子をスマートフォンで“自撮り”して投稿するなど、視聴者との隔たりのない距離感が共感を呼ぶのだろう。反ワクチンについてのメッセージをネットユーザーが拡散している状況だ。Facebookでは、直近1年間で「ソソアカ」という言葉を含む投稿が約2万4000件あり、「いいね!」「ひどいね」などのリアクションの件数は約1800万件にも及ぶ。昨年10月27日に公開したワクチン接種者に対しての重々しい口調で発信したメッセージ動画は特に人気を博した。「防接種センターに行ったあなた方は、屠殺場に連れていかれる羊だ」――。「インターネットの女神様」とも呼ばれている。

 反マスク派として行う数々の“奇行”も人気の理由だ。

 たとえば昨年12月、ルーマニア憲法設立30周年に際し、ソソアカ氏は犬の口輪をつけて国会の総議会に登場。そしてこう叫んだ。

「憲法はルーマニアの聖書のような存在です。それが30年間、徐々に破られてきた。そしてこの2年で、憲法は確実に犯されています。サンタクロース(※ルーマニアでは「聖ニコラス」)が憲法設立祝いに私にプレゼントをくれたわ。それが“犬の口輪”よ! 基本的人権と個人の自由が、議会、政府そして大統領によって侵害されているという意味のプレゼントなのよ!」

 感染予防のマスク着用に対する抗議ということなのだろう。やはり昨年には、参加者が全員マスク非着用で、ソーシャルディスタンスも無視した私的なパーティーをレストランで開いた。「ハッピー・バースデー、ルーマニア! 今は最高の時、皆、目を覚ますのよ。人生は生きるためにあるものよ」と叫びながらのどんちゃん騒ぎは、国会で非難の対象にもなった。

 国民にとって「ルーマニア正教」は心の拠り所だ。聖書に言及した先の発言からもわかるとおり、ソソアカ氏は自称「敬虔なキリスト教徒」で、それを大衆に向かって強調することが多い。昨年11月末の「聖アンデレ使徒の聖日」には、100人近くのファンを連れてコロナで人数や立ち入りを制限されていた「使徒アンデレ洞窟への巡礼」を強行。洞窟の付近で抗議活動を繰り広げた。彼女を含む参加者の面々がマスクを着用していないことで、警察から総額1万7300ルーマニア・レウ(およそ45万円)の罰金を課されることに。ソソアカ氏の言い分は「ルーマニア憲法では、宗教的儀式の自由をいかなる場合でも妨害してはならないと定められています! たとえ戦争中であっても、宗教の礼拝の自由を侵害してはならない」だった。

 ソソアカ氏は病院や予防接種センターに出向き、医療スタッフらと激しい議論を交わす様子を動画で撮影し、Facebookで生中継も行う。そんな彼女の言行録の一部を紹介する。

「コロナの死亡者もパンデミックも嘘デタラメだ! ナチス戦犯らを裁いた第二のニュールンベルク裁判が今後起きるでしょう」
「ファイザー製ワクチンはルーマニア国民のDNA原型を破壊する!」
「コロナが原因で死亡したとされる遺体の全てを掘り起こすわ!」
「今、米国のCDC(米国疾病予防管理センター)は、コロナで死亡したワクチン接種者らを全て未接種者として登録するように命令しているのです」
「マスクが身を守ることを証明する科学的証拠は何もない。マスクを着用しないで心から人生を楽しもう」

 ワクチン接種を受けようとする十数名を乗せた車を止めたり、ルーマニア東北部の病院を訪問した厚生大臣に「なぜ無症状の人を入院させるのか? コロナが危ないなら、なぜ特別防護服を着用して身の安全を守らないのか?」と噛みついたこともある。そんな様子を収めた動画の中には、24時間以内に約4万6000件もシェアされ、100万人近くがクリックしたものもある。

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