手提げ金庫で売上金を管理する者はいなくなるか? 「暴力団離脱者」の口座開設支援に乗り出す警察庁の勝算とカベ
「元暴5年ルール」の壁を
なにより、自治体の暴力団排除条例において、暴力団を離脱しても5年間は「暴力団員等」とみなす自治体も多く、暴力団離脱者は、社会生活上の各種契約ができないという現実がある。
これが、いわゆる「元暴5年ルール」である。この規定を受け、全国銀行協会は、銀行取引約定書に導入すべき暴排条項の参考例を公表しており、排除対象が以下のように記されている(2012年改正)。
〈暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロまたは特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者〉
今回の「暴力団離脱者の口座開設支援について」と題された文書は、離脱者が直面する「元暴5年ルール」の壁を実質的に取り払い、彼らの社会復帰を容易にし、更生を促進させる判断である。
なぜなら、銀行口座が持てないということは、携帯電話の契約もできず、賃貸契約もできない。つまり、我々が当たり前に享受できるはずの「社会サービス」が受けられない結果を惹起し、就職すらままならないという事態を招いていた。
離脱予備軍の背中を押す効果
この度の口座開設要請は、再犯防止推進計画に基づき、暴力団員の社会復帰対策推進の一環としてなされており、当局の最終目的である組織からの離脱を加速させ、暴力団勢力を弱体化させることにつながると考えられる。
その理由のひとつとして、以下の点が挙げられる。暴力団を離脱する者は、毎年一定数存在するわけだが、離脱に踏み切れなくて迷っている者、すなわち、離脱予備軍が存在している。口座開設要請は、この離脱予備軍の背中を押す効果が期待できる。
読売新聞2月22日付記事には、元警視庁暴力団対策課長のコメントを紹介しながら、暴力団側が足抜けを防ぐために「組員に『やめても口座すら作れないぞ』と言い、離脱を防ぐケースもある」としている。つまり口座を作れないことは、暴力団を離脱する際の重い枷となっていたのだ。
現実問題として、離脱者に格別の便宜をはかることは好ましくないし、社会的なコンセンサスも得られないだろうが、銀行口座の開設が他の誰かの不利益に結びつくとは考えづらい。言うまでもなく、現代社会を生きるために口座は必要であり、それを認めるのは決して離脱者を甘やかすようなこととはならない。
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