「プーチンは狂人でもナショナリストでもない」 佐藤優が読み解く「暴君」の“本当の狙い”

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プーチンが持ち出した屁理屈

 2月21日には前出の二つの人民共和国を国家承認していますが、国家承認とは通常、国民がいて実効支配をしている政府があり、国際法を守る意思があると認められれば、国際法上は違法性を有しません。続けてロシアは両人民共和国との間に「友好、協力、相互援助条約」を結びました。これは日米安保と同じような同盟条約であり、その締結後に要請を受け、24日に軍を派遣したという流れで、まずは体裁を整えた格好です。

 またプーチンは今回「特別軍事作戦」が国連憲章51条に該当すると主張しています。これは集団的自衛権を認める条項です。さらにプーチンは武力行使を正当化するために“ウクライナの「ネオナチ」政権から守るため”という屁理屈を持ち出したのですが、ウクライナ政府には、ナチスドイツと一時期協力したステパーン・バンデーラを民族の英雄として尊敬する人たちがいるので、こちらもこじつけることができます。

 侵攻のタイミングも実に合理的でした。前日の2月23日は、1918年にソ連がドイツに勝利した「祖国防衛の日」であり、愛国感情が最も高まる日。無名戦士の墓にプーチンが献花し、盛大な軍事パレードが行われる。国民全体で戦いに思いをはせ、翌日に「ネオナチ」との戦闘に踏み切ったというわけです。

国境を「面」で捉える

 プーチン自身は狂人でもなければ、郷愁にとらわれたナショナリストでもありません。24時間、国のために働くことができる国益主義者であり、典型的なケース・オフィサー(工作担当者)です。今回は国際社会からさまざまな経済制裁を受けるでしょうが、その反面、NATOがすでに機能していないことを白日の下に晒したともいえます。これ以上、NATOに加盟しようとする国が出てこなければ、ロシアの安全保障上、きわめて大きなメリットとなります。

 彼がもくろんできたのは非共産主義的なソ連の復活です。つまりはベラルーシ、ウクライナ西部、トランスコーカサス、そしてカザフやキルギス、タジキスタンなども勢力圏に置くというもので、それがあるべきロシアの姿だと考えています。ただし、完全に版図に組み込むわけではなく、ロシアの強い影響下にある状態を望んでいる。国境を線ではなく「面」で捉えており、各国がそれぞれバッファ(緩衝地帯)でなければならないと考えているのです。

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