マウンドはプロ仕様、ラプソードも完備…プロも通う「野球専用ジム」が都心に誕生した理由

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データをアプリで確認

 実際に「外苑前野球ジム(仮)」にはあらゆる年代やレベルに合わせて、硬式球だけでなく軟式球やジュニア用のボールやバットが用意されている。ジムというとトレーナーが指導するというイメージが強いかもしれないが、伊藤氏はトレーナーではなく、野球経験は中学までで、高校では陸上部に所属していたという。

 また、ジムを立ち上げる前はAI(人工知能)を活用したサービスを提供する会社のプロジェクトマネージャーを務めており、スポーツに直接かかわっていたわけではない。そんな経歴の持ち主が野球ジムを立ち上げたのにはどんな背景があったのだろうか。

「選手として野球は中学までしかやっていないですが、見るのはかなり好きで、特にMLBは年間200~300試合程度をテレビなどで観戦していました。前職ではAIに関わっていたのですが、たくさんのデータがあることで、いろんなものに活用できるんだということが分かりました。米国では、野球の世界でもさまざまなテクノロジーが導入され、野球が変わってきましたよね。そういう状況を見ていて、5年前ぐらいから、自分のスキルが好きな野球に生かせるのではないか、そう思ったのが野球ジムを作ったきっかけです」(伊藤氏)

 利用者は誰でもジムで練習した投球や打球のデータをスマートフォンのアプリで確認することができ、そのデータが蓄積される仕組みになっている。オープンからまだ3ヵ月足らずにもかかわらず、そのデータ量は既に1ヵ月あたり2万5000球に達している。これは、NPBの公式戦で1年間にとれるデータを遥かに上回るペースだという。今後は、ラプソードに加えて、動作解析のツールを導入する予定で、蓄積されるデータはさらに増えていくそうだ。

野球界にイノベーションが起こるか

「『ドライブライン・ベースボール』はデータを活用しながら、スキル向上のメソッドを自分たちで作っていくというアプローチですが、僕たちがやりたいことは、それとは違います。とにかく、多くのデータをとって、AIに学習させていけば、人間の考えだけではたどり着けないものが見えてくるかもしれない、という考え方です」(同)

 将棋や囲碁の世界では、AIを活用することで、新しい戦法などが生まれている。こうした変化は、野球の世界でも起こり得る可能性があるという。

「指導者が自分の経験してきたことや、いろんな人の考えをもとに指導するものとは、全く違う世界がスポーツでも起こせるのではないかと考えて、事業に取り組んでいます。その結果として、怪我をする選手が減ったり、環境的に恵まれない選手がレベルアップしたりしていくといいですよね。スポーツの世界では、あまりなじみがない話かもしれませんが、一般的な業界ではテクノロジーの進化で、これまでの常識が変わるのは普通のことではないでしょうか」(同)

 近年では、ダルビッシュ有(パドレス)がラプソードで計測しながら練習する様子をSNSで公開するなど、データを活用してスキルアップを図ることは一般的になっている。また、プロになれる選手は限られていても、国内の草野球人口は500万人とも言われ、どんなレベルでも上手くなりたいというニーズがあることも確かだ。取材当日も平日の昼にもかかわらず、会員が練習に取り組んでいた。

 あらゆる選手のデータが大量に蓄積される仕組みが、東京の都心に誕生したことは非常に画期的である。近い将来、このジムがきっかけとなり、野球界にイノベーションが起こる……そんな未来も決して夢物語ではないかもしれない。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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