いま戦時下が舞台の小説を書く理由 コロナ禍との共通点と相違(古市憲寿)
かれこれ2年になる。世界中が新型コロナウイルスの狂乱に巻き込まれてからだ。当初は「こんな騒ぎは外国だけだ」「せいぜい数カ月もあれば収束するだろう」という見方もあったが、結局は2年間もコロナ時代は続いてしまった。
僕はこの間、『ヒノマル』という長編小説を執筆していた。昭和18年夏から始まる戦時下の青春小説である。
主人公は15歳の勇二。国家のために死ぬことを夢見る軍国少年だ。彼が出会った歴史学者の娘である涼子は、日本が戦争に負けると言い放ち、自由奔放に振る舞う。...