エンパスなのか? 松潤の過干渉ぶりの背景が気になる「となりのチカラ」

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 私が住むのは、老朽化と高齢化の激しい小規模マンション。数年前にうっかり管理組合の理事長を引き受けちゃったがために、問題山積みで頭を抱えている。

 なので、マンショントラブルや住民問題には、今、ものすごく興味がある。しかも主人公はライター。同業ということで感情移入する気満々で観始めたのだが、わやな印象になっているのが「となりのチカラ」だ。

 住民が抱える悩みやトラブルをなぜか敏感に察知してしまい、お節介をやかずにいられない主人公・チカラ。演じるのは松本潤。主役なのに、驚くほどセリフが少ない。え、パントマイム? というのも、チカラの心情はほぼナレーションの田中哲司が語る。しかも茶トラの野良猫のテイで。これでいいのか?と思ったが、とぼけた表情の松潤を、穏やかでなめらかな哲司の声でフォローする感じは悪くない。この作品の想定外の魅力としておこう。

 細かいツッコミどころとしては3点。ナレーションの野良猫が住民たちを俯瞰するのだが、4階のベランダまでは上がれないだろうという点。お節介をやくにあたって、松潤が各住居を覗き見する点。あらあら、出歯亀でいいのかしら、と。

 最大の難点はマンション住民のバラエティー感がどうにもこうにもリアリティーを欠くところ。どうしても社会問題の上澄みを掬い取ってぶちこんだとしか思えず。虐待疑惑のあるエリートサラリーマン一家、認知症予備軍とヤングケアラー、技能実習生の外国人女性は怪しげな店を営業、さらに怪しげなスピリチュアル系マルチ商法おばさんに、連続幼児殺人事件を起こした元少年Aとされる青年。あと、ペラッペラ個人情報をしゃべる管理人もな。郊外のマンションは分譲? 一貫性のない住民のスペックにはご都合主義を感じてしまう。

 個人的には、脚本・遊川(ゆかわ)和彦が一つのテーマを深掘りする作品の方が好き。自分の浮気が原因で妻が自殺とか、偽装結婚とか、養子縁組とか、過保護な親とか。今作のようにギュウギュウに社会事象を詰め込むと、とっちらかる気がしてね。

 ところが、である。もしや松潤が「エンパス」と思うと、今後の遊川節にがぜん期待をしてしまう。共感力が高くて、他人に感情移入しすぎる人を、エンパスあるいはHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)と呼ぶ。

 お節介と人助けばかりで自分(と自分の家族)をおろそかにする松潤を、妻の上戸彩はフォローしつつも心配する。上戸のセリフは、松潤の心身を憂うニュアンスも含んでいたので、ふたりの子も含めた一家に秘められた過去があるのかも。エンパスにはエンパスの苦悩と悲劇があるのだろう。過干渉というか、介入せずにいられない性分の背景が、とても気になる。異様な共感力は心を蝕むはずだしね。

 ただただお節介な善人が皆の問題を解決、笑顔で大団円なんて綺麗事には絶対しないはず。北京五輪で休止が多くて先に進まなかったが、名作と呼ばれるようになるフックが今後必ずあると信じて。遊川節を待つ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年3月3日号掲載

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