「年齢のことを気にしていた自分が恥ずかしい」 女優・中江有里が振り返る30代での大学挑戦
いま注目を集める「リカレント教育(社会人の学び直し)」。女優・中江有里が35歳で法政大学文学部に入学した理由とは――。
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社会人になってからの学び直し、それは私にとってひとり旅のようなものでした。
山登りにも似て、周囲に同じく山頂を目指す人はいますが、それぞれのペースは違う。選ぶ道も違う。
誰に命じられて始めたものでもありません。自分がやりたくて、自分で決めたことだから、失敗しても誰に責められるわけでもない。逆に、自分がやらないと何も始まらない。日々の自己努力で前へ進んでいくのを実感できるのは自分だけであるように、毎日少しずつ勉強を重ねて自分の中に「学びの柱」ができていくことが分かるのも自分だけです。
私が法政大学通信教育部の文学部日本文学科に入学したのは35歳の時でした。
もともと本が好きだった私は、縁があって30歳の時に「週刊ブックレビュー」という番組に出演させていただくことになりました。すごく楽しかった一方で、知識不足を痛感させられた。映画で例えるならば、映画好きを自任しているのにヌーベルバーグを知らないという感じだったんです。
いざ試験に臨んでみると……
このままでは、絶対にこのさき困る。自分の無知を何とかしなければいけない――。そう感じていた時に、たしか電車の中吊り広告で通信制の大学のことがパッと目に入り、日本文学の体系を学ぶために大学に入ろうと決めたんです。明確な目的があったので、躊躇はありませんでした。
でも、入学してみると現実はかなり厳しくて、とてもじゃないけれど太刀打ちできないと打ちのめされそうになりました。
例えば、この日に古文の試験があると知らされていても、試験範囲は全く教えてもらえない。いざ試験に臨んでみると、「万葉集の梅の歌について論じなさい」と……。
そんなピンポイントなところを突いてくるなんて!
あまりに衝撃的だったので、今でも忘れられません。ちょっとした挫折を味わわされました。
通信教育は自宅学習以外に、キャンパスでの対面授業(スクーリング)も受講しなくてはなりません。1、2年生の時は一般教養として化学の授業もあったんですが、そこでも挫折を経験。その日の課題は、ラベンダーの花の液を抽出してせっけんを作れというもので……。
化学が苦手でどうしようと困りました。
たまたま同じグループに詳しい人がいたので助かりましたが、せっけんを作る過程をちゃんとレポートにして翌日までに提出しなければならず、寝ずに仕上げた記憶が残っています。
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