「恋人に気を遣わなくなる」ことは問題? ふかわりょうが思う、“履き慣れた靴”と日常

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最後の遠足

 一昨年の夏から秋に変わるころ、横たわったまま吐かれたかぼそい息が天井に消えると、尻尾を揺らして私の周りを歩いていたビーグルは、四角い額の中から私を見つめるようになりました。首輪をポケットに入れて、よく散歩をしていた場所を歩いたり、走り回っていた山へ、車で出かけたり。あの頃をもう一度味わいたくて。一緒に過ごした日常がどれだけ幸せなことだったか。
 
「ねぇ、どこにいくの」

「特にあてはないけれど、ちょっと歩きたくなって」

 もう一度、あなたと一緒に出かけたいのに、あなたは新しい靴ばかりに気を取られて、もう私のことなんか気にしていない。そう諦めかけていた履き潰された靴が久しぶりに浴びる光。

「新しい靴じゃなくていいのかしら」

「今日は、遠足だから」
 
 靴の隙間から侵入した小さな石が、足の裏を刺激する河川敷の道。目の前に、水たまりが現れました。

「避けなくていいから。気を遣わず、汚しちゃって」

 そう言われると、斜めにすり減ったラバーソウルが薄氷を割るように水たまりの表面を砕きます。

「中に染み込んだら、ごめんね」

「別に、構わないさ」

 胸を躍らせながら通した白い紐もすっかり灰色になっています。この靴との最後の遠足。すこし濁った水たまりに映る冬の空が揺れています。雲がふわふわと、犬のような形をしていました。

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