“脳のゴミ”を日光で洗い流す日本発の「光認知症療法」 実現すれば安価で50代から予防も可能

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発症してからでは遅い

 近年、認知症の治療現場では「早期発見・早期治療」が重視されるようになった。専門医の問診や認知テストにより認知症予備軍「MCI」(軽度認知障害)と分かった時点で治療に着手する考えだ。実際、MCI患者は約半数が、放っておくと5年以内に本格的な認知症を発症するといわれている。それを遅らせるため、食事の改善、運動、または創作活動などの療法がある程度効果的であることが分かってきたが、アルツハイマーの場合も、“毒”となるアミロイドベータの蓄積は早ければ50代で始まり、脳内のあちこちで凝集が進んでゆく。そして、10年、20年後に発症することが分かってきた。

「アルツハイマーの症状が目に見えるような形で出た時は、脳細胞の死滅が始まっている段階です。現在の医療では死滅した脳細胞は再生できないため、この時点でアミロイドベータの分解を始めても脳の機能は十分に元に戻らないと考えられます。それより蓄積が始まる段階で、その産生を抑制し、分解を進めることが、最も重要なのです」(富田教授)

 アミロイドベータの蓄積を測るのは、現在、PET検査や脳脊髄液の採取により可能となっている。これらの検査は、まだ保険適用になっていないが、昨年6月、ノーベル化学賞の田中耕一氏らが、1滴の血液からアミロイドベータ関連物質を測定する分析器を開発。より低額で、体への負担が小さい測定方法が実現している。

 そして、富田教授らの研究は、アルツハイマー治療の「最後の壁」も突破できる可能性があると注目されている。それは「薬価」だ。

血圧の薬なみの値段に

 一般に抗体薬は効き目が強い一方、価格が高いことで知られている。たとえば米国において、アデュカヌマブは発売当初、年間5万6千ドル(約630万円)かかった(月1回1時間の静脈注射)。それもあってか、発売後3カ月の売り上げがわずか30万ドル(約3400万円)だった。バイオジェンは半年後に半額への値下げを余儀なくされたが、それでも年間2万8200ドル(約320万円)である。

 翻ってわが国では、MCIの患者が約400万人と推定されている。もし、アルツハイマーの進行を抑えるためにアデュカヌマブを全員に投与すれば、1年で実に10兆円以上の費用がかかる。これを10年、20年と続けるのは現実的であろうか。

「薬価というものは、研究開発費の回収が終われば生産コストだけになるため、だんだん下がっていきますが、抗体薬の場合、特殊な設備で細胞を培養して製造するため、生産コストそのものが高い。その結果、薬価が下がりにくいのです」(富田教授)

 一方、毎日飲んでも、大した負担にならない薬がある。たとえば血圧を抑える降圧剤だ。日本の高血圧の患者は993万7千人。これだけの数が降圧剤を毎日服用できるのは、薬価が低いためだ。現在はジェネリック品も販売されており、ほとんどが1日あたり100円以下のコストだ。

「こうした薬の値段が低いのは、低分子化合物でできていて生産コストが抑えられるからです。私たちが研究している光触媒も低分子化合物であり、研究開発費の回収が終われば、降圧剤と同程度まで薬価を低くできるでしょう」(同)

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