“脳のゴミ”を日光で洗い流す日本発の「光認知症療法」 実現すれば安価で50代から予防も可能

ドクター新潮 医療 認知症

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 発症すれば言葉と記憶を失い、「自分」が自分でなくなってしまう。近い将来、わが国では高齢者の5人に1人がアルツハイマー病になるという。それを事前に食い止める治療法の開発に取り組む日本人研究者たちがいる。鍵は「触媒」と「光」。いかなる新療法なのか。

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 50代になったある日、定期健診でアルツハイマーの前兆を告げられる。だが心配には及ばない。その日から処方された薬を飲んで、陽光に当たるだけで予防できる――こんな画期的な「アルツハイマー予防薬」の研究を、東京大学大学院薬学系研究科の富田泰輔教授、金井求教授らの研究グループが進めている。

 高齢化の進行により増え続ける認知症患者は、2025年には高齢者(65歳以上)の5人に1人、約700万人に達すると推定されている。なかでも認知症の68%を占めているのが「アルツハイマー型」だ。今もって治療法は確立されておらず、発症すれば直近の記憶が失われ、やがて言語能力と身体機能が低下、日常生活を送ることも困難となり、寝たきりになってしまう。原因はアミロイドベータという物質だ。

アミロイドベータが脳内に蓄積されると…

 その仕組みを富田教授が説明する。

「洗面台で水を流して排水するように、人の脳内では、生まれた時からアミロイドベータというタンパク質を産生し、分解することを繰り返しています。加齢が大きな原因と見られますが、その分解能力が低下、つまり洗面台の排水口が詰まるように、アミロイドベータが脳内に溜まってしまう。それが凝集して毒性を持ち、脳細胞を死滅させると考えられています。また、アミロイドベータが蓄積すると、続いて、細胞内でタウというタンパク質も蓄積しはじめ、これが脳細胞を死滅させることも分かってきています」

 現在知られているアルツハイマーの治療薬といえば、1997年にエーザイが発売した「ドネペジル」(製品名アリセプト)がある。

「これは脳内の神経細胞を活性化して、認知機能を向上させる作用がある。しかし、問題となるタンパク質を分解するものではなく、初期患者の認知機能を一時的に改善することはできますが、結局、認知症は進んでしまう。根本的な治療薬ではないのです」(同)

 本命のアミロイドベータを分解できる薬ができないものか。医学界では20年以上にわたり100を超える治験が繰り返されてきたが、昨年6月、エーザイと米バイオジェンが共同開発した「アデュカヌマブ」(製品名アデュヘルム)が米FDA(食品医薬品局)により「迅速承認」される。世界で初めてアミロイドベータをターゲットにした薬だ。

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