オイルマネーによるゴルフ新設ツアーにスター選手が移籍宣言 王者タイガー・ウッズに期待されること

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マネーはあるが、歴史や伝統はない

 一方、PGAツアーは選手たちの流出を食い止めようと必死に対抗策を打ち出している。賞金額を軒並み大幅アップしているほか、選手の人気度に応じてトップ10に総額40ミリオンを支給するPIP(プレーヤー・インパクト・プログラム)、年間15試合に出るだけで一律5万ドルを支給する「プレー15」等々、ボーナス制度を次々に新設している。

 しかし、「目には目を」的に「マネーにはマネー」で対抗するだけでは、いずれ限界が来るだろうし、得策ではないはずである。

 というのも、新ツアーにはマネーはあるが、歴史や伝統はない。PGAツアーには、新ツアーにはない歴史や伝統がすでにある。そして、その象徴的存在としてウッズがいる。

 彼が「僕はPGAツアーをサポートすると決めている。僕のレガシーは、そこにある」と語っていることが、今、選手たちの流出を食い止める最大の力になっている。

 プロゴルファーは個人事業主ゆえ、どちらのツアーを「仕事場」に選ぶかは各選手の判断次第だ。「あっちへ行くな」と指図することは誰にもできないが、ウッズに憧憬を抱いてPGAツアーにやってきた選手たちが、今でもウッズの姿勢や動向を大いに参考にしていることは言うまでもない。

 ローリー・マキロイ、ブルックス・ケプカ、ジャスティン・トーマスといった元世界一も、現世界一のジョン・ラームも、ウッズ同様、PGAツアーに忠誠を誓っている。

 マキロイは「僕らトッププレーヤーが新ツアーにノーと言っていることが正しい答えを示している」と語り、ラームは「PGAツアーにはお金以上のものがある」と言い切る。

ジョンソンとデシャンボーが続けざまに

 アーノルド・パーマーやジャック・ニクラスらの時代を受け継ぎ、ウッズを筆頭とするトッププレーヤーたちが刻んできた歴史や紡いできた絆や想いは、新ツアーがどれだけ札束を積んだところで手に入れることができない貴重な財産である。

 その財産づくりの中心となってきたウッズが、今もこれからもPGAツアーに存在し続け、その象徴としてオーラを放ち続けることが、今こそウッズに期待されている。

 願わくば、ウッズにはツアー復帰を果たし、その魅力をさらにアピールしてほしい。だが、回復途上の右足に加え、腰も膝も各5回の手術を重ねてきた彼の肉体は限界寸前だ。

 だから今は、PGAツアーの素晴らしさを象徴する「生きる証」として、ウッズがそこに存在し、「僕のレガシーはそこにある」と言い続けることが期待されている。それを聞いて「なるほど。僕のレガシーもそこにあるな」と、みんなが気付く。

 そう気づかせる役割を担えるのは、王者ウッズだけである。

 2月20日、ジェネシス招待最終日の午後、移籍が噂されていたジョンソンとデシャンボーが続けざまに「新ツアーには行かない」「PGAツアーこそが戦う場所だ」という声明を発表。ゴルフ界は騒然となり、そして安堵した。

 2人が「ウッズの大会」のサンデー・アフタヌーンに新ツアーをきっぱり否定したことは、単なる偶然ではなかったはず。私は、そう思っている。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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