一橋大学を卒業後、40年ほど「引きこもり」…当事者が激白 “毒母”が生み出す「高齢引きこもり問題」

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内面の自由さえ奪われ……

 杉本さんは幼稚園時代に体験した出来事を忘れられない。読み聞かせの物語の中に、イチゴのサンドイッチが出てきた時のこと。

「お話を聞いていて、イチゴのサンドイッチの絵が頭に浮かんだんですが、なんでイチゴのサンドイッチのイメージが湧くのかなって衝撃を受けたんですね。あれ? テレビを見ているわけでもないし、実物を見せてくれているわけでもないのにどういうこと? 不思議、不思議って」

 そう思った瞬間、異変が生じた。

「アッ、これ、ママにバレる! そう思って頭の中の映像を打ち消したんです。こんな嬉しい思いを僕はしちゃいけないんだ。普段からママに頭を覗かれてる。だから喜んじゃいけないんだって」

 母親から受けていた抑圧、内面にまで深く侵入した支配の強さの証だ。「快」なるものを想起すると、それを自ら否定し消去する。いや、それ以前に「想像」という内面の自由さえ、剥奪されていた。

「ママに覗かれるから空想の自由なんかなくて、絵ですら自由に描くという発想がなく、お遊戯も自由に動けない。先生に優しくされても、何をどう受け止めていいかわからない。優しくされたことが母親にバレたらまずいって、ただ思っている。もうこれ、ノイローゼですよね」

 ケーキひとつ選ばせてもらえなかった。選ぶ自由も、迷う時間も許されなかった。

「大学に入ったらね、4年間、自由があるのよ」

 母親と二人で歩いていた日に言われたことがある。多分、4、5歳の頃だったと杉本さんは記憶する。

「あんたね、大きくなったら、パパみたいな立派な大学に行くのよ。そしたら、ママみたいな素敵な女性と出会って、うちみたいな幸せな家庭が作れるんだからね。ママの言うことをよく聞いて大学に入ったらね、4年間、自由があるのよ」

 身体に衝撃が走った。4歳だから、4年の意味はわからない。だが、自由の時間が用意されていることは、はっきりとわかった。

「ママの言うことを聞いてちゃんと生きていたら、僕に4年間という膨大な自由な時間があるって、その時、強烈に思った。完全に洗脳です。もう、母親の好き放題ですよ。ママの言うことさえ聞いていれば、夢のような時間が約束されているのですから」

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