一橋大学を卒業後、40年ほど「引きこもり」…当事者が激白 “毒母”が生み出す「高齢引きこもり問題」

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「この子、殴って」

「ひきこもりになる時限爆弾は、母によって埋め込まれた気がします」

 池井多さんが、こう自覚するのも当然のことだった。

 その一つが、池井多さん言うところの“スパゲッティの惨劇”だ。

 母親が営む塾への生徒の出入りが途切れる夕刻、彼女の夕食準備はいつも同じ言葉から始まる。

「おまえ、夕ごはん、何が食べたいの?」

「なんでもいい」

「ねえ、スパゲッティ、食べたくない?」

 意図は読めた。誘導だ。答えは端(はな)から決まっている。

「じゃあ、スパゲッティ。食べてもいい」

「え? スパゲッティが食べたいのね! 食べたいのならもっとはっきりと、スパゲッティが食べたいですと言いなさい!」

 こうなると「食べたい」と言うしか選択肢はない。

 母親は、あくまで息子の希望だと“確認”した上で調理し、やがてスパゲッティをテーブルに置く。が、特に食べたくもないので食は進まない。その様子に母親は激昂する。

「食べたくないなら、食べなくていい!」

 皿を取り上げ、スパゲッティを流しにぶちまける。そのとき、父親が帰宅した。

「お父さん」

 母親が、そう話しかける。

「この子、『スパゲッティが食べたい、作れ!』と言うから作ったのに、『こんなもの、食えるか!』って捨てちゃったのよ。ねえ、お父さん、この子、殴って」

「勉強しないなら、死んでやるからね!」

 逆らえない父親はズボンからベルトを取り外し、息子を打った。チャーハンや焼きそばでも同じ光景が展開された。家庭の食卓ばかりか旅行先でも「冤罪」が作られ、父親が“刑”を執行した。中学受験を迎えた頃、母親に囁かれた呪いのような言葉も、爆弾の一つになった。

「あなたね、お父さんみたいになったら、人間おしまいよ。学歴もない、収入もない、才能もない。あんな人間になってはいけない」

 父の背中に向けて放たれる侮蔑の言葉が、子どもにとってどれほど耐え難いものか。「一橋大学に入らなければならない」という母親の厳命を背負った池井多さんは、小学生だというのに夜中2時までの勉強を強いられた。

「おまえが勉強したいのよね? おまえが一橋大学へ行きたいのよね?」

 返答に窮していると、母親はまた激昂する。

「勉強しないなら、お母さん、死んでやるからね!」

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