「脱炭素」を急ぎ過ぎた報いで… グリーンエネルギーバブルの崩壊が近い
世界のインフレが止まらない。
米労働省が2月10日に発表した1月の消費者物価指数(CPI)は前年比7.5%上昇した。昨年12月(7.0%増)から伸びが加速し、1982年以来約40年ぶりの高水準となった。足元の原油高が高インフレを助長しており、欧州でも同様の状況だ。
インフレ予想の高まりを受け、世界の金融市場で金利の上昇が顕著となっている。米国では長期金利の指標となる10年物国債利回りが2年半ぶりに2%台となった。米連邦準備理事会(FRB)が今年3月に利上げを行うことも確実視されている。
新型コロナのパンデミック下で世界各国は拡張的な財政金融政策を実施し、債務を膨らませてきたが、緩和局面は転機を迎えている。
金利の上昇により金融市場で流動性が枯渇する事態が起きやすくなることから、米ウォール街で「数十年間続いたディスインフレに慣れ親しんだトレーダー達が高インフレが続く時代の試練を受け、パニック売りに出るのではないか」との懸念が生じている(2月10日付ブルームバーグ)
その兆候が既に出ているようだ。世界の再生可能(グリーン)エネルギー株が売られている。主要銘柄で構成される株価指数は2021年前半をピークに下落し、足元では昨年来の安値圏に落ち込んでいる。成長期待株と注目されていたが、供給網の混乱や人手不足による業績悪化の懸念や競争の激化などが災いして株価を圧迫している(2月8日付日本経済新聞)。
ハイテク株の「下げ」を上回るグリーンエネルギー株の不調は、世界的な金利上昇が影響しているとされている。大規模な投資資金の流入のおかげでグリーンエネルギー企業の株価はここ数年で急上昇したものの、金利が上昇すれば、環境面での信頼性は高いが収益性が低い企業に対して、投資家は寛容でなくなるという見立てだ。
「バブル」の警戒感
「グリーン・イズ・グッド」というキャッチ・フレーズが示すように、グリーンエネルギーへの投資はこのところ急拡大していた。企業や政府が地球温暖化対策に関連する事業の資金調達のために発行する「環境債(グリーンボンド)」などが急増したことで、2016年から2020年にかけて世界のグリーンエネルギー投資の総額は35兆ドルに達したとの試算がある。
ボストン・コンサルティング・グループなどが昨年12月に公表したリポートによれば、2050年までに温暖化ガスを実質的に排出しないネット・ゼロの状態を実現するためには約120兆ドルの資金が必要だという。グリーンエネルギーは世界のGDP合計を上回る巨額資金が流入する極めて有望な市場に成長するとの期待が高まっていた。
グリーンボンドは通常の社債よりも利回りが低くなるプレミアムが生じていたが、今年に入りプレミアムが縮小する傾向が出ている。世界的な金利上昇の懸念に加え、投資家の選択眼が厳しくなっているからだ。
グリーンエネルギーを牽引するのは電気自動車(EV)だ。EVのテスラの株式時価総額が一時1兆ドルを超え、新興のEV企業の株価時価総額も大手自動車企業に肩を並べるようになっている。だがグリーンエネルギーの担い手の多くは経営や財務が不安定な新興企業である。「バブルではないか」との警戒感が生まれている。
世界の中央銀行も気候変動対策を支援する動きに出ている中で、国際決済銀行(BIS)は昨年9月、グリーンエネルギー投資についての情報開示は不十分だと指摘した上で「市場の透明性が確保されなければ、バブルが発生する恐れがある」と警告を発した。
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