先輩・市川美余が明かす「藤澤五月」を生かすチーム力の秘密(小林信也)
リザーブの務め
日本で注目され始めた当初、カーリングといえばポーカーフェイスで、選手は滅多に笑顔を見せない、クールな頭脳戦の印象が強かった。だが、ロコ・ソラーレは平昌五輪で話題になったように、「そだねー」の方言や“もぐもぐタイム”などの奔放さで従来のイメージを大きく覆した。
「ミスが出ても感情を出す。悔しさを隠さない。それを家族のように共有できる」
記者会見でも「チーム内の情報公開」について質問が飛んだ。吉田が答えた。
「それぞれ思うことがあったり、緊張したり、違うものを持っています。それをひとりで抱えるより、『いまこういう気持ちなんだ』『ごめんなさい、今日は助けが必要です』と、感情が爆発してパフォーマンスが崩れる前にチームのメンバーに頼る。余裕のある人が、余裕のなくなっている人をサポートする。弱い時こそ最高のプレーができるサポートのし合いがこの4年間、しっかりできたと思います」
平昌五輪後、さらに上を目指すメンバーに請われてロコ・ソラーレに加入した唯一の40代になる石崎琴美の言葉も印象的だった。
「あの時の話をするといろいろ甦って泣きそうになっちゃうんですけど。銅メダルを獲った強いチーム、出来上がったチームに入る不安と、とてつもなく大きな覚悟が必要で、断った方が楽だった。でも、みんなが何回も“告白”してくれて、それがあまりにもうれしくていまここまで来ています」
石崎は今回リザーブだ。吉田がこう語っている。
「ナイト・プラクティスで琴美さんが石を全部チェックしてくれるので……」
ストーンは、それぞれのシートに予め用意されている。石は調整具合でひとつひとつ滑り方が違う。それを詳細に調べ、メンバーに伝えるのもリザーブの重要な務めなのだ。それを基に、使う石の順番も決める。
さらに勝負を分けるのは試合中も刻々と変わる氷の状態を把握し、対応する感性だ。北京の氷はどうなのか、私は藤澤に聞いた。
「北京の氷の状態は!」
明るい声で言った後、一瞬沈黙して藤澤は叫んだ。
「わかりません! でも、国内でも合宿中のカナダでもいろんな氷で練習してきたので、どんな状態の氷になっても『どんと来い!』って感じです」