松鶴家千とせさん死去 「たけしは酒を飲んで収録に…」「渥美清にバカヤローと怒られ…」 語っていた浅草芸人伝説

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

浅草に恩返し

 ふと気付けば、あまたの芸人たちがキラ星のごとく輝いていた浅草の時代は、はるか彼方へ。M-1はじめ昨今のテレビのお笑い番組などを見ても、吉本興業や大手芸能事務所が半ば独占状態。

 浅草の笑いが衰退した理由を、千とせはこう語った。

「東京の芸人は、昔から群れない傾向がある。今も、事務所に属さずにフリーでやっている人は実は多いんです。自然、テレビからの声はかかりにくい。

 その上、狭量な小屋主たちがいて、よその舞台に立った芸人をシャットアウトしたりするから、若手も伸びない」

 その若手の側もまた、ずいぶん変わった。

「今じゃ、師匠に弟子入りして苦労するより、50万円もの授業料を払って、大手事務所の芸能スクールに入ろうっていう時代でしょう。

 つまり、遊びがない。闇がいいとは思いませんが、師匠から伝承されたり、侠客文化みたいなもので成り立っていた浅草の魅力もあったはず。

 僕らは“浅草っ子”といいますが、東八郎さんはじめ内海桂子師匠、浅香光代さんに、欽ちゃんやたけしなんかもそうだが、もともと浅草や近辺の生まれ育ちで、江戸のにおいを感じさせる芸人さんも、すっかりいなくなってしまった。

 まあ、東京組で今も頑張ってるなと思うのは、ナイツくらいでしょうか」

 浅草が往時の輝きを取り戻す日を信じて、千とせは今日も自ら舞台に立ち続ける。

「恩返しのつもりで、若手もベテランも集め、『うたとお笑い』と題した演芸会を毎月、木馬亭で主催しています。

 浅草の笑いのファンを増やすには、生の舞台を見てもらうに限るんです。そのためにも、お客さんがドッと集まってくるような新時代のスターが早く出てこないかなぁ」

堀ノ内雅一(ほりのうちまさかず)
1958年、北九州市小倉生まれ。ノンフィクションライターとして、主に人物ドキュメントなどを手掛ける。著書に『阿部定正伝』『指紋捜査官』など。

2021年5月20日号掲載

特別読物「『松鶴家千とせ』が全盛時代追想 キラ星『浅草芸人』列伝」より

前へ 1 2 3 4 5 次へ

[5/5ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。