単身赴任の妻が誕生日に若い男と浮気… 「47歳」夫はなぜ“彼女の釈明”に怒りが沸かなかったのか
佳緖さんが九州へ転勤に
上の子が中学に入ってすぐ、佳緖さんに転勤の話が持ち上がった。お互いに、いつかこんな日が来ると覚悟はしていたものの、現実となると話は別だ。ふたりともいつになくあわてたという。
「しかも転勤先が九州。すぐに帰ってこられる場所でもない。チーム会議を開きました。うちの子たちはけっこう自立しているけど、それでも当時は13歳と12歳ですからね。どうすると言ったら、上の娘が『おかあさんはどうしたいの?』と。息子は『仕事したいんでしょ』とニヤニヤしている。ふたりはわかっているんですよね。佳緖は『私にとって、あなたたちがいちばん大事。でも今は仕事をしたい気持ちもある』と。娘は『単身赴任でも行きたいんでしょ』と追い打ちをかけていました。息子が『おかあさん、このチームと仕事とは別だよ。こっちが大事なのはわかってるから言い訳しないでいいよ』って。12歳でこんなこと言えます? 僕、思わず感動して泣いちゃったんですよ。子どもたちにはバカにされましたが」
親子といえども人格は別。母親のやりたいことを阻害したくないと子どもたちは理解している。「オレたちの子とは思えないくらいすごいよと言いました。佳緖も泣いていた」と光憲さんはいう。
「なに深刻になってんの、別に会えなくなるわけじゃないでしょと娘が言って、それもそうだとみんなで笑いました」
佳緖さんは多少、交通費がかかっても週末は帰ると決め、単身赴任へと旅立って行った。平日はみんな忙しいから電話なども最小限にし、代わりに月に3回は帰ってきたという。
「母親が単身赴任しているなんて珍しいから、子どもたちは友だちや友だちのおかあさんなんかに、いろいろ言われることもあったみたいです。でも『うちのチームはしっかりしているから』とはねのけてると当時、娘は言っていました」
連休があると、彼は子どもたちを連れて佳緖さんのもとへ行った。4人で九州のあちこちへ旅行もした。
「1年目はそうやって過ぎていきました。佳緖がこっちにいるときと同じくらいコミュニケーションはとれていた。ただ、2年目になると彼女も職場で成果を上げないといけないという思いが強くなったんでしょう、帰ってくるのは月に2度になりました。ときどき仕事の話もしていましたが、よく倒れないなと思うほどがんばっているようでした」
もちろん光憲さんも子どもたちを注意深く見つめながら、日々の暮らしを大事にしていた。男手ひとつで育ててくれたとはいえ、当時は父への不満もあった。だから子どもたちには常に細かく、「何をどうしてほしいか」尋ねた。
「ただ、娘も息子もいち早く料理だけはできるようになっていたので、どうしても僕が仕事で遅くなるときはふたりで作って食べていたようです。息子は僕なんかよりずっと料理のセンスがありましたね」
単身赴任が2年になったころ、「あと1年だけこちらにいさせて」と佳緖さんが言い出した。営業所はようやく軌道に乗り始めた。今がいちばん大事な時期だというのだ。チーム会議でそれが認められ、単身赴任は3年目に入った。
「それまで僕はひとりで佳緖のところへ行ったことがなかったんですよ。だけどたまには行ってみたいなと思うようになった。それだけ子どもたちがしっかりしていたから。『だったら、おかあさんの誕生日当日に行ってあげなよ』と子どもたちが言ってくれたんです」
サプライズ訪問が招いた悲劇
その前週末、佳緖さんがこちらの家に帰ってきたときに子どもたちは盛大な誕生祝いをしていた。リビングの壁には「誕生日おめでとう」の大きな紙が貼られ、3人で作った料理やケーキが並んだ。娘はアクセサリー教室で作ったピアスを、息子は学校の陶芸部に1日入部を頼み込んでコーヒー茶碗を手作りした。
「佳緖は目を潤ませてプレゼントを喜んでいました。いいチームができたよねと僕たちはその晩、ずっと愛し合いました」
その3日後が誕生日だった。光憲さんは子どもたちに背中を押されて、初めてひとりで佳緖さんの住むマンションに出かけた。
「仕事を終えて飛行機に飛び乗りました。翌日はたまたま祭日だったので。佳緖のところに着いたのは午後10時過ぎでしたか。鍵を開けたら、佳緖の声が聞こえたんです。子どもと電話でもしているのかと思ったけど、なんだか様子がおかしい。けっこう広い1LDKの部屋ですが、LDKに入ろうとして気づいた。妻がソファでなまめかしい声を出していて……。男の背中が獣のように動いている」
光憲さんは「見てはいけないものを見てしまった。出ていかなくては」と思った。それなのに体が動かない。目をそらしたいのにそらせない。
「ひときわ大きな声を放ったあと、妻の荒い息づかいがしました。しばらくして男が立ち上がったので、僕は思わずしゃがみこんだ。これならソファからは見えないはず。男はバスルームへと歩いていきました。妻はドアが開いているのがわかったんでしょう。僕のほうにやってきた。そして僕を見つけて『ギャッ』と飛び上がったんです。僕は思わず『ごめん』と言ってしまいました」
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