カムカムでひなたを演じる川栄李奈 AKB48で最も成功した女優の強みとは
NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(NHK総合・毎週月~土8:00~ほか)の2月10日放送分(第71回)から、3代目ヒロイン・ひなたが登場した。上白石萌音(24)、深津絵里(49)のバトンをアンカーとして受け渡されたのは川栄李奈(27)。彼女は元AKB48メンバーだが、卒業生と現役含めたグループ全体で最も女優として成功した例である。自身2度目の朝ドラにして、待望のヒロイン役を任されることとなった魅力を改めて考察してみたい。
川栄は2010年の7月、15歳のときにAKB48第11期研究生オーディションに合格し、同年11月13日のAKB48研究生「シアターの女神」で公演デビューを果たした。待望のシングル初の選抜メンバー入りは、12年5月発売の26thシングル「真夏のSounds good!」だった。以後、グループを卒業するまでに全9回シングル表題曲で選抜入り。グループの恒例行事である「AKB48選抜総選挙」でも最高第16位を獲得している。15年8月4日、AKB48劇場で行われた卒業公演をもってグループから卒業。当時、まだ20歳で、劇場公演デビューからAKB48としての活動期間は約4年8カ月という短さだった。
AKB時代の後半には“おバカキャラ”として注目を集めたこともあり、卒業後は誰もがバラエティタレントになることを予想していたという。しかし彼女が選んだ道は意外にも“女優”だった。それまで何本かドラマ経験はあったものの本格的だったわけではない。ターニングポイントとなったのは、14年に放送された連ドラ「ごめんね青春!」(TBS系)への出演だった。共演した同世代の役者たちの芝居にかける情熱を目の当たりにし、衝撃を受けたのである。21年3月に放送された「SWITCHインタビュー 達人達」(NHK Eテレ)では、与えられた演技機会について「心の底からすごい楽しい」と語る姿があった。もともと素のままでは喜怒哀楽が出せないタイプだったが、台本をもらって役に臨んだときに初めて感情表現ができることに気づき、「自分の違った一面が出せる」と驚いた。そして「自分ではない人生を歩いているのが楽しかった」とも語っている。
一方で、アイドルについて「自分が行きたいほうは、こっちじゃない」と直感したという。頑張れば、いいところまで行ける時期ではあったし、AKBと芝居の両方を頑張るというやり方もあったが、「今頑張って、いいところに行っても、自分の夢はそこにはないと思った」とも。その決意と覚悟が卒業後の初仕事に表れていた。舞台「AZUMI 幕末編」の稽古を秋葉原での卒業公演が終わった翌日から始め、初舞台で初主演を任された。殺陣やワイヤーアクションもある作品だったが、MV撮影の2時間前に振りを覚えることもあったというAKB時代の経験と天性で、殺陣を見事にマスターして演じきったのである。舞台での動きも柔らかく、軽やかだった。AKB時代はともすると小柄でか弱いイメージがあったが、大迫力の格闘シーンを披露したことで女優としてのキャパシティーの大きさをみせつけた。この作品の構成・演出を担当した岡村俊一は彼女について「2週間でほぼ段取りを覚えていた。相当容量のあるコンピューター」と表現し、地頭の良さを強調。その上で、「今の演劇界では1位を獲れると思う」と最大級の賛辞を送っている。
翌16年春には「とと姉ちゃん」(NHK総合)で初の朝ドラ出演を果たす。演じたのはヒロイン・小橋常子(高畑充希)が居候する仕出し屋“森田屋”の一人娘・富江である。実直で感情をあまり出さないしっかり者の役柄だった。ここで彼女は目立ちすぎないナチュラルな演技を披露。共演者を食わず、それでいて場面場面でしっかり印象に残る絶妙さで役に溶け込み、一躍脚光を浴びた。AKBという大所帯グループにいた経験を活かしたといえる。そして以降、女優・川栄李奈の快進撃が始まっていく。出演したドラマは連ドラ、単発、ゲスト出演合わせて30本以上。映画も13本に出演するなど、今や名バイプレイヤーとしてなくてはならない存在となっているのだ。
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