【カムカム】「ひなた」のいる回転焼き屋にやってきた“不愛想な男”から目が離せない理由

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この物語のテーマとは

 では、この物語のテーマは何かというと、番組側の提示したフレーズを額面通りに受け取るべきだ。まず「これは、すべての『私』の物語」と謳っている。確かに朝ドラに多い偉人伝ではない。ひたむきに生きる市井の人たちの物語である。つまり3人は視聴者の分身だ。

 さらに「あなたがいたから私です」としている。なぜ、今の自分があるのか考えさせようとしているのだろう。これまで日本にはほとんど存在しなかった作風である。

 何度か書いたが、米国には歴史的大ヒット作「ルーツ」(1977年)がある。2016年にはリメイク版もつくられた。

 やはり3世代3人の100年が描かれた。西アフリカのガンビアから奴隷として無理に米国へ連れて来られた初代から子供、孫へと続いたファミリーストーリーだった。

 3人とも差別や迫害に屈せず、誇り高く生きた。2度の世界大戦や大恐慌も乗り越える。

 視聴率は40%を軽く超えた。なぜ、全米中が熱狂したかというと、1つのファミリーの歴史がドラマチックに描かれた一方、米国100年史が市民目線で映し出されたからだ。「カムカムエヴリバディ」現象と通じる。

 ただし、この朝ドラは「ルーツ」を超えている。「バトンを渡して、私は生きる」とも謳っており、私たちが未来に何を残せるのかまで描こうとしているからである。壮大なスケールだ。

 この物語は随所に川が登場する。もちろん意図的に違いない。岡山の旭川、大阪の大和川と道頓堀川、京都の鴨川。

 川は流れ続ける。穏やかな流れの時もあるが、荒れ狂うことも。人が抗うのは難しい。時代と一緒だ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮編集部

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