【カムカム】「ひなた」のいる回転焼き屋にやってきた“不愛想な男”から目が離せない理由
一代記との明らかな違い
1983年度の朝ドラ「おしん」に代表される一代記の場合、世の移り変わりは映し出せるが、時代や環境によって違ってくる個人の苦悩や葛藤は描けない。これこそが、藤本さんがヒロインを3人にした意図の1つに違いない。
生きる時代が異なると、人間の内面まで違ってくる。1965年生まれのひなたは18歳の現在、天真爛漫。屈託がない。
安子は18歳だった1943年に稔と晴れて結婚したものの、ほどなく学徒出陣されてしまい、淋しい思いを強いられた。その上、稔は戦死。以降は安子の笑顔が激減した。涙ばかりが印象深い。
るいは18歳だった1962年、岡山の雉真家を出て大阪へた。胸には暗澹たる思いを抱えていた。安子との別離と額の傷のせいである。すべては戦争に起因する。
人間には時代を超えて共通する部分もあるが、時代によって異なる面もある。戦前世代と戦中世代、焼け跡世代、戦後世代などと区別される所以である。ちなみに安子は戦前派で、るいは焼け跡派。ひなたは戦後派だが、バブル世代でもある。劇中は今、まさにバブル前夜だ。
3人の知られざる共通点
半面、3人が血族だからか、それとも藤本さんの遊び心なのか、共通点もある。例えば、運命の男性と出会う場所。
安子が稔と出会ったのは実家の和菓子店「たちばな」の店頭だった。1939年、第3話である。
「土産を買いそびれて」(稔)
「わらび餅が売れています。せやけど、私はおはぎがお薦めです」(安子)
るいとジョー(オダギリジョー、45)の出会いは「竹村クリーニング店」のカウンター。
「洗濯お願いします」(ジョー)
1962年、第40話だった。名乗らなかったジョーをるいが「宇宙人」と命名したのはご記憶だろう。
緻密な脚本を書くことで知られる藤本さんだから、あえてこういう設定にしたはず。
すると、今後が注目されるのは、ひなたと条映の役者・五十嵐文四郎(本郷奏多、31)の関係。
2人は回転焼屋「大月」の店先で出会った。1983年4月、第71話だった。
「おいでやす。何個にしましょう」(ひなた)
「おばさんは? いつものおばさん、いないの?」(文四郎)
無愛想でとっつきにくかったが、これは当初のジョーと一緒である。2人から目が離せない。
[2/4ページ]