阪神・藤浪晋太郎、今年こそ完全復活なるか…「阪神OB」と「野球動作解析スペシャリスト」の見解は?

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「感覚をアップデートしていく必要がある」

 野球の動作解析のスペシャリストで、筑波大硬式野球部の監督も務める川村卓准教授によると、投手の制球力を司る要素はかなり繊細な部分にあるという。川村准教授は以下のように指摘する。

「やり投げを見ても分かるように、強く遠くへ投げようとしたら右投手の場合は(投手から見て)右上の方向にボールが飛ぶのが自然で、投手はそれを体のあらゆるところを使って、ボールの方向を制御しています。そして、最後の大きなポイントは指先です。コントロールがいい投手は、リリースポイントが安定していると言いますが、実際は同じところで、ボールをリリースしているわけではありません。リリースする位置がずれても、指先の感覚で調整しています。藤浪投手はあれだけの長身で腕も長く、体を大きく使って投げることから、少しのずれがボールにも大きく影響してきます。(藤浪に限ったことではなく)例えば、下半身だとステップする足を着地する場所は同じでも、膝の向きがわずかにずれていて、それがボールに影響するようなこともあります」

 それではできていた時のフォームに戻せば、良いのではないかと考えたくなるが、話はそう簡単ではないそうだ。川村准教授はこう続ける。

「コントロールできていた時のフォームで投げようと思っても、その時とは筋力や柔軟性など体の状態は違うので、同じように投げられるわけではありません。今の体の状態に合うように、感覚をアップデートしていく必要があります」

「ボールのスピード、力はさすが」

 そして、やはり気になるのが今年の藤浪の状態ではないだろうか。「ここまでのキャンプは順調じゃないですかね」。そう話すのは、元阪神の投手である福家雅明氏だ。福家氏は阪神関連の番組を多く手掛けるディレクターであり、CS放送「スカイA」のキャンプ中継では毎年解説を務めている。藤浪の状態を間近で最もよく確認している球団OBの一人といえる。

 福家氏は今季初実戦となった今月5日の紅白戦についてこう話す。

「立ち上がりの2球は、高めに抜けたのですが、3球目から体の使い方が縦になって、抜けるボールがなくなったんですね。すぐに修正できたのは良かったと思います。ブルペンで投げているボールも、トラックマン(回転数などを計測する機器)で良い数字が出ていると聞きました。佐藤(輝明)にはホームランを打たれましたけど、決して悪いボールではなかったですし、他のピッチャーと比べてもボールのスピード、力はさすがだなと思いますね」

 実戦形式の中で修正できたというのは、前出の川村准教授の話と照らし合わせてもかなり大きなプラスではないだろうか。さらに、福家氏がもうひとつ注目したのは、キャンプから新たに取り組んでいる変化球だという。

「キャッチャーの梅野(隆太郎)が投球の幅を広げようということで、大きいカーブを要求して、ロハスからも三振を奪いました。打者からすると、頭になかったボールだと思いますね。ただ、腕の振りは、まだ『カーブを投げますよ』という感じに見えたので、もっと腕を振って投げられるようになる必要はあると思います。それができるようになれば、大きな武器になるでしょう。ボールの力を考えると、細かいコントロールで勝負する必要はないと思うので、どのボールも大体ストライクゾーンに投げられるだけで結果はついてくるんじゃないですかね」

 プロでのデビューが早く、5年間にわたって低迷しているため、すっかりベテランかのように見られているが、今年で28歳ということを考えると、全盛期はこれから訪れても全く不思議ではない。現在の体にフィットする感覚を身につけ、持っているポテンシャルを存分に発揮できるのか。プロ11年目の逆襲に期待したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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