「AD呼称廃止」で現場は混乱……テレビ局を悩ます親たちから寄せられるクレームの“中身”

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退職してユーチューバーに

「松本さんの相方である浜田雅功さんが出演したドラマ『ADブギ』(91年・TBS・主演:加勢大周)がヒットした頃、テレビ業界は3Kと言われながらも、華があって人気の業界でした。学歴・経験は問わず、体力とセンスさえあれば成り上がることができて、高収入も夢ではなかった。憧れの芸能人に会えて、一緒に仕事ができることも人気の理由でした」

 徹夜仕事は当たり前、週休2日など夢のまた夢、働き方改革なんて言葉すらなかった頃の話だ。3Kと呼ばれようとも、人気の業種だったのだ。

「しかし、ここ数年はテレビの視聴率低下に伴い、業界で仕事をしたいという学生や若者も少なくなりました。就活では民放テレビ局を志望する学生は、かつての5分の1から6分の1に減ったといわれています。YouTubeというプラットフォームで自分の好きな動画を配信し、ユーチューバーになるという選択肢もできましたからね」

 ウエンツの言ったとおりだ。

「テレビ局に入社しても2~3年で辞めて、ユーチューバーに転身する例も少なくありません。そうした人材不足に歯止めをかけるため、昨年秋頃からADの呼称を変えるところが増えました」

管理職がアシスタント業務

 社内の至る所に「ADと呼ばないで下さい」と書かれた啓蒙ポスターが貼られているテレビ局もあるという。そして、呼称だけ変えたところで何も変わらない、わけではないというのだ。

「名前で呼ぶのは問題ないのですが、ADという呼称がなくなり、ND、SD、LD、YDはいずれもA(アシスタント)ではないため、彼らにアシスタント業務をさせられなくなっているところも出てきています。さらに、働き方改革で残業もなくなりましたからね」

 では、誰がやっているのか。

「管理職のプロデューサーやディレクターです。管理職には労務問題も関係ありませんし、残業代もつきませんからね。ですから夜8時になると、ADだった若手スタッフには先に帰ってもらい、管理職のおじさんたちが収録の準備や後片付けといったアシスタント業務をせっせとやっているのです」

 何かおかしい……。

「『ADに辞められては困る』と、以前から若手スタッフにはかなり優しく接していたんです。いわばぬるま湯状態で育てた結果、温室育ちの若者が増えてしまい、そこに働き方改革、AD呼称の変更が加わったことで、腫れ物に触ることもできない状態となってしまったんです」

温室育ちに加えて

「制作会社の場合、若手スタッフのモチベーションを上げようと、番組によっては放送最後に流すスタッフクレジットの“ディレクター”というくくりの中に、これまでADだった若手スタッフの名も加えたそうです。その結果、『ディレクターと同じ給料を支払うべきだ』という声が届いているところもあるそうです。それも若手スタッフの親からのクレームだとか……」

 前述の「ワイドナショー」での寺島しのぶの発言が、改めて思い出される。

寺島:(ADは)映画の世界なら助監督、すごくいい言葉じゃないですか。監督を助けるって、ADもディレクターを助ける……。

――進行の東野幸治が、AD呼称問題を改めて説明する。

寺島:助けたくないってことですか? そういう方(AD)たちがいなかったら、本当のディレクターさんとか監督たちは、大変困りますよね。

 スタジオ内では失笑が起こったが、現実は彼女の言葉通りになっているようだ。

デイリー新潮編集部

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