阪神・高山俊 このままでは終われない…かつての新人王、野球人生をかけた闘い

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「バランスも、体の動きもいい」

 和田の“解説”は、私にとっても、実に分かりやすかった。

 つまり、投球を自分のミートポイントへと引き込んでくればいい。それが、和田が何度も指さしていた「懐」のあたりなのだ。そこまでボールを呼び込めば、高山の高い技術をもってすれば、簡単にヒットコースへと運べるわけだ。

 2日の練習中のことだった。高山は、置きティーの途中で一度、三塁側ベンチへと引き上げた。右手に抱えてきたのは、普段のバットの半分くらいの長さの“超短尺バット”だった。

 これをまず、右手一本で持ってティーを打ち、さらに左手一本でもティー。それぞれの動きを確かめた上で、再びスイングする。高山の場合、そうした一つ一つの動きを確かめた上で、後で連動させることができるという、対応力の高さがある。

 そうした1つ1つの動きが、3日目にして、一つの形になっているように映った。

「どこを意識すれば(体が)動くのか。印象を持ったのは、今年の俊の方が間違いなくいい。去年よりも、バランスも、体の動きもいいですね」

 日高の言葉に、合点がいった。

 高山は、バッティング回りで89スイング。打撃投手、カーブマシンに続き、ラストはストレートのマシン。その87、88スイング目に、連続で右翼フェンス上のネット中段付近へ、打球をぶち当てた。さらに、全体練習後に特打1時間、153スイングをこなした。

「僕はやるしかないんで」

「今は、ピッチャーとの対戦もないんで、まずは自分の形でしっかり打つことですね」

 練習後の高山に、練習での狙いを尋ねると、丁寧にこう答えてくれた。

「意識を変えれば、体の動きも変わると思うんですが?」

 感覚の部分を、言語化するのは実に難しい。何とか極意を聞き出してみたいと、質問をひねってみたが、「技術もそう、意識もそうですね」。その“真意”にまでは、なかなか迫れない。そのもどかしさはあった。

 高山の練習ぶりを見続けたのは、キャンプの1クール目の3日間。それだけで、復活間近だとか、今年は間違いないといった、勝手な判定を下すような愚は避けたい。ただ、間違いなく言えることがある。高山は、変わろうとしている。自らの可能性を信じた上で、もう一度、自らの打撃に磨きをかけ直そうとしている。

「しっくりきているとかいうより、今は、そんなことを言っている場合じゃない。僕はやるしかないんで」
 
 このままでは終われない。

 この男が復活すれば、間違いなく、阪神の攻撃力は、格段にアップする。チームの浮沈と、自らの野球人生をかけた“闘い”でもある。

喜瀬雅則(きせ・まさのり)
1967年、神戸市生まれ。スポーツライター。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当として阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の各担当を歴任。産経夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。産経新聞社退社後の2017年8月からは、業務委託契約を結ぶ西日本新聞社を中心にプロ野球界の取材を続けている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)、「不登校からメジャーへ」(光文社新書)、「ホークス3軍はなぜ成功したのか」(光文社新書)、「稼ぐ!プロ野球」(PHPビジネス新書)、「オリックスはなぜ優勝できたのか 苦闘と変革の25年」(光文社新書)。

デイリー新潮編集部

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