阪神・高山俊 このままでは終われない…かつての新人王、野球人生をかけた闘い
レギュラー争いへ割って入れるか
6年前の新人王。しかし、昨季は1軍出場なし。そして、プロ7年目の2022年、キャンプインは、2軍からのスタートとなった。
阪神・高山俊の置かれた立場は、実に厳しい。
沖縄・宜野座でキャンプを張る1軍のメンバーを見れば、近本光司のセンターはまず確定だろう。打力重視のレフトには、2年目のロハス・ジュニアだろうか。若手の中でも、同じ安芸からのキャンプスタートながら、長打力には定評のある3年目の井上広大、捕手から内野手登録に切り替え、安芸キャンプではレフトも練習中の13年目・原口文仁ら、それこそ候補は目白押しだ。ライトは、ルーキーイヤーの昨季に24本塁打を放った若き大砲・佐藤輝明か、それとも40歳のベテラン・糸井嘉男か。
その激しいレギュラー争いの中へ、高山は再び割って入ることができるのか――。
高山と同じく、2015年ドラフト1位の同期生には、オリックス・吉田正尚がいる。明治大・高山は、東京六大学で131安打を放ち、リーグの通算最多安打記録を樹立。青山学院大・吉田は、東都大学リーグの2部で、しかも身長173センチ。「プロ野球選手」として見れば、小柄な部類ともいえた。オリックスは、当時の編成部長・加藤康幸が吉田獲得を主張したとき、球団首脳たちは「同じ左なら、高山がいるじゃないか?」と、こぞって反対したという。
しかし今や、立場は完全に逆転した。
吉田は昨季、2年連続首位打者に輝き、オリックスを25年ぶりのリーグ優勝に導く原動力となった。一方の高山は、2年目以降の5シーズンで、出場試合数も、安打数も、本塁打数も、打率も、打点も、新人王を獲得した1年目を上回ることができていない。
だからこそ、気になった。2022年、キャンプイン。初日の取材に、私は「安芸」を選ぶことにした。高山を、じっくりと見てみたいと思ったのだ。
初日からエンジン全開
2月1日。練習のメニュー表には、全体練習後の【個別】の欄に「打撃:9」と記されていた。キャンプ初日から、まさしくエンジン全開で入ってきた。およそ1時間。144スイング。
高山は、自らの正面、つまり、右打席方向にカメラを据え、自らのフォームとスイングを撮影していた。打ち終えてからも、窓に映る自分の姿を、何度もチェックしていた。
ティー打撃は、トスする球をはじき返すのではなく「置きティー」だった。
地面に垂直に立てられたポールの上にボールを置き、正面のネットに打ち返していく。愚直にその単純な動きを繰り返し、1球打ち終わるごとに高山は動きを止め、傍らに立つ日高剛・2軍打撃兼分析担当コーチと話し合っていた。
タイミングの取り方なのか。ミートポイントの位置なのか。その“打撃談義”の内容を、日高に確かめてみた。
「何か探っているのではないんです。俊のオフの取り組み、体の使い方で、一体どこを意識しているのかと。話ですか? 多少、細かいかな? 聞いたから僕も分かりましたし、僕にもいい勉強になりました。1つ2つ、意識の持ちどころですね」
こうした、プロの“独自の感覚”の部分になってくると、書いて伝える側にとっては、実に難しくなってくる。だからどうしても、より具体的に聞きたくなる。
「うーん、打つポイントとか、そういう問題ではないなあ……」
細部を突っ込もうとすると、少々険しい表情になった。日高は、両手の人さし指で「×」を作って「その辺は、あまり言いたくないですね」
簡単に伝えられるような、かつ、一目で見て分かるような部分ではきっとないのだろう。だから、こちらもひたすら見続けるしかない。何かが、きっと変わってくるはずだ。そこから、高山の“変化の過程”を見抜くしかない。
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