【カムカム】ラジオ英語講座と、あんこと野球とジャズと時代劇…藤本脚本が描く5つの題材の共通点

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 NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」は放送開始から第15週に入ったが、その人気は衰える気配すらない。どうして観る側の心をわしづかみにするのか。この朝ドラが面白い理由を深掘りする。

 この朝ドラが3世代の女性たちが紡ぐ100年のファミリーストーリーであるのはご存じの通り。

 あらためて確認すると、1925年3月生まれの安子(上白石萌音、24)、1944年9月生まれのるい(深津絵里、49)、1965年4月生まれのひなた(川栄李奈、26)である。

 加えて、あらかじめ次のように説明されていた。

「ラジオ英語講座と、あんこと野球とジャズと時代劇を題材に藤本有紀さんが書き下ろすオリジナルストーリー」

 一見、5つの題材は全く違う。どんな物語になるのか見当も付かなかった人がほとんどに違いない。

 過去の朝ドラの題材はほとんどが1つ。例えば第69話の劇中で登場した1976年度前期の朝ドラ「雲のじゅうたん」は女性パイロットが題材。ヒロインは浅茅陽子(70)だった。

 題材が増えるほど物語をつくるのが難しくなる。半面、物語が複雑化するから、面白くなる。それに藤本さんは挑み、成功している。

題材の共通点

 実のところ「ラジオ英語講座と、あんこと野球とジャズと時代劇」は無関係のようで、共通点がある。

 いずれも花形扱いされた時代は過ぎたが、日本人に長く愛されてきた。藤本さんは斜陽期にある大切なものに光を当てている。観る側を惹き付けている理由の1つでもあるはずだ。

 ラジオでの英会話学習のブームは終戦後すぐに起こり、昭和末期まで続いた。テキストが廉価であることが大きかった。

 たとえ家が貧しかろうが、高い英語力を身に付けることができた。けれど今はタブレットなどを利用したオンライン学習に圧倒されている。

 あんこが命の和菓子も売り上げが落ちている。コンビニスイーツに押されている。野球人気の落ち込みは説明するまでもない。

 日本のジャズの流行も1950年後半から1970年代まで。ジャズファンが愛した月刊誌「スイングジャーナル」は2010年に休刊になった。

 時代劇は絶滅寸前。民放は「金がかかる」「若い人が観ない」ことなどを理由に、レギュラー番組をつくらなくなった。

 自分たちが愛し、親しんだものが寂れようとしている。やむを得ないことなのだろうか――。藤本さんがそう静かに語り掛けている気がしてならない。

 藤本さんは設定づくりも抜群にうまかった。この物語の全体に横たわる核心部分は「誤解による安子とるいの生き別れ」だが、調べたところ、似た設定は過去104作の朝ドラで1作もない。

 母娘の生き別れはあった。ヒロイン(山口果林、74)が5歳の時、母(草笛光子、88)が家を出たという設定の「繭子ひとり」(1971年度)である。ただし、この作品は21歳になったヒロインが母の家出の理由を知ろうとする物語だったから、似ても似つかない。

 誤解によって母娘の仲が引き裂かれた作品は皆無。ドラマチックな展開を思いついたものである。

 安子がるいと離れるつもりが全くなかったのはご記憶の通り。なにしろ「るいは私の命なんです」(第38話)と言っていたくらいである。大阪時代、るいのために倒れるまで働いた安子を考えると、本心だろう。

 けれど義父・雉真千吉(段田安則、65)は母娘が雉真家を出て2人で暮らすことを頑として許さなかった。るいの額の傷を治すためには雉真家の財力が欠かせないと強弁された。これを言われると、安子は反論できない。

 それでも安子は雉真家の近くに住もうとした。ところが、兄・算太(濱田岳、33)が兄妹の独立資金を持ち逃げしたことから、計画は土台から崩壊する。

 その上、安子にとって「命」のるいから「I hate you(大嫌い)」と義絶された。何もかも失った安子がGHQ将校のロバート・ローズウッド(村雨辰剛、33)と渡米したのもうなずけた。

 安子が祖国・日本を後にしたのは、ある種の“心中”だったのではないか。

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