年金依存「埼玉立てこもり男」の極貧生活を知人が証言 「よく借金取りが訪れていた」

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 負の連鎖が止まらない。大阪ビル放火事件、東大前刺傷事件に続く「拡大自殺」がまたもや起こった。周囲を巻き込み自殺を図る忌むべき事件。皆に慕われた赤ひげ先生の命を奪った男は、いかなる人物なのか。

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「“やめろ”という声が聞こえた途端、バンッという銃声が鳴り響き、体に届くほどの衝撃波を感じました」

 そう振り返るのは、現場近くに住む60代女性。立てこもり事件は、1月27日午後9時頃、埼玉県ふじみ野市にある住宅街で起きた。

 殺人容疑で送検された渡辺宏容疑者(66)は、その前日に自宅で介護していた92歳の母親が病死。担当医の鈴木純一さん(44)や治療スタッフを呼びつけた。

 社会部記者が言う。

「取り調べで容疑者は、焼香のつもりで訪れた鈴木さんらに“心臓マッサージで蘇生させて”と頼んだが断られた。“母が亡くなり、周りの人を殺して死のうと思った”と話しています」

 そして鈴木さんの心臓が破裂するほどの至近距離で散弾銃を撃ち放ち、死に至らしめたのだ。居合わせた理学療法士の男性(41)も撃ち、その後自宅に11時間も籠城。最後は警察に踏み込まれ逮捕と相成った。

 凶器の銃は、実母の亡骸が横たわるベッドの上に放置されていたというが、渡辺容疑者はクレー射撃などの目的で2丁の銃の所持を県警に許可されていた。2020年11月の所持免許更新もパスしたそうだから、彼の狂気に気づくことはできなかったのかとの疑問は拭えない。

 殺害された鈴木さんは、地元で300人近くの患者を抱える訪問介護のクリニックを運営していたことから、地域医療の被る損失は大きい。生前の彼を知る60代の女性に尋ねると、

「夜中でも構わず診察に来てくれて、私たち家族は『赤ひげ先生』と呼んでいた。いつでも飛んでいけるよう病院に寝泊まりし、年に数回しか自宅に帰らない。人助けに懸命だった方が殺されるなんて理不尽です」

“エアガンを買ってくれ”

 渡辺容疑者も、5年ほど前から心不全などを抱えた実母の診察を鈴木さんに託していた。複数の病院でトラブルを起こし、最終的に鈴木さんが買って出て面倒をみていた。まさに恩を仇で返したことになる。

 渡辺容疑者と面識のあった医師は、こう振り返る。

「彼は他の病院と喧嘩して来たと言っていた。間質性肺炎の母親に“ステロイドや特効薬を打ってくれ”の繰り返しで、高齢者にはリスクがあると説明しても聞く耳を持たない。しまいには“専門家なのに治療する気がないのか”と責め立てる手紙が届き、文末の余白に“猛省しろ”と大きく書かれていた。彼は人の命に限りがあるとか、齢をとればいずれ誰しも弱っていくということが自分の母親に限ってはあり得ない。そう思い込んでいる怖さがあった」

 母親の話になると我を忘れて怒り狂う――。容疑者を知る医療関係者はそう口を揃えるが、20年ほど前まで東京・江戸川区の都営団地で、元気だった実母と2~3歳の子供と同居。妻と思しき外国人風の女性も出入りしていたという。

 当時を知る団地住民は、

「よく借金取りが訪れて、ドアには蹴られた跡が残っていた。ある時、渡辺容疑者が“エアガンを2千円でいいから買ってくれないか”と言うので応じたら、電気代が払えると喜んでいた。いつしか子供の姿も見なくなったので、奥さんが引き取っていったのかなと思いました」

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