韓国バブルに崩壊の兆し 不動産が一斉に値下がりも国民は「まだ大丈夫」
コロナ対策が火に油
グラフ②は先ほど紹介した「週間マンション価格動向」の1年間の累計変動率を地域別に示したものです。具体的には各年最終週のデータから、年間の累積変動率を拾いました。
KB国民銀行など民間のデータと比べ、韓国不動産院のそれは値上がり率が低めに出るとの批判もあります。税金を節約するために実際よりも安く申告された取引金額をベースに算出している、と考えられているからです。ただ、韓国不動産院のデータがもっとも幅広く取引をカバーしていると思われるので、これを使います。
2017年にソウルの取引価格は5・19%増と跳ね上がりました。投機を煽るような現実から乖離した「対策」もあって、翌2018年には6・92%増とさらに上がりました。不動産投機の波は少し遅れて首都圏に及びました。
2019年には対策の効果が出て全国的に高騰は収まりましたが、2020年に新型コロナに対応した世界的な金融緩和が始まると、再び投機に火が付きました。
ホットマネーは強い規制下のソウルから首都圏、さらには全国に流れ込みました。文在寅政権の任期後半には世界的な金融緩和がバブルを煽りたてたのです。
今後は金融引き締めという短期要因に加え、人口減少という長期要因が値下がりに追い打ちをかけるのは確実です。バブルが一気にはぜる可能性があります。
「年後半には回復」と楽観
――それでも、バブル崩壊への警戒感は高まらない?
鈴置:「不動産価格の値下がりは一時的な現象で、今年後半には回復する」と解説する専門家が多いのです。毎日経済新聞の「『不動産不敗』江南も下落目前…大統領選挙前に取引閑散」(2月4日、韓国語版)は「利上げと貸出規制のためにマンション価格が下がった。ただ、3月の大統領選挙を前に取引件数が多くない中、市場には急いで売ろうとする人ぐらいしか出ず、これで下落局面に転じたと見るのは難しい」「ソウルなどで住宅供給問題が解決されていないので、今年下半期には状況は変わりうる」との専門家2人の発言を報じました。
毎日経済新聞は、韓国銀行が2021年8月以降、3回にわたって利上げを実施したことによる一時的な影響との見方を紹介したのです。また、5月9日に発足する新政権がどんな不動産政策が打ち出すか極めて不透明で、マンション投機をする人は売買を手控えていることも要因と指摘。バブル崩壊への懸念はちらとも見せませんでした。
韓国には「まだ家を持っていない人がいて実需はある。だから不動産は下がらない」と言う人が多い。しかし、買いたくてもおカネが無ければ不動産は買えません。生産年齢人口や経済活動人口が減るほどに「おカネを持つ人」は減るのです。
それに韓国では、マンションを貸して巨額の保証金を得て、それで新たなマンションを買う、といった投機が横行している。この投機の連鎖により、普通の小金持ちでも数軒を持つのが普通で、多い人は数十軒のマンションを保有します。
韓国のマンションブームは巨大な仮需の上に成り立っているのです。いったん値下がりが始まれば、投げ売りが発生するのは目に見えています。
「投機の時代」の終焉
投機をする人々はさすがに不安になってきた。そこで、投機家の愛読紙、毎日経済新聞が「まだ、大丈夫」と安心させる記事を載せた格好です。これに対し、左派系紙のハンギョレが「投機の時代が終わるかもしれない」と書き始めました。
「弱まる韓国の『借金して投資』ブーム…融資自制、預金と積金が増加」(2月4日、日本語版)です。なお、見出しの「積金」は「貯金」と訳した方が日本人には分かりやすいでしょう。
・この2年近く韓国社会を沸かせた「資産投資ブーム」は幕を下ろすのだろうか。借金してでも投資しなければならないと言われていた積極的な投資ブームには、明確な変化が見られる。
・不動産、株、コインなどの投資資産の価格を支えていた超低金利の流れが止まったことで、さらなる融資と投資を自制し、できるだけ貨幣性資産を確保しようという様子見の姿勢がはっきりと表れている。
人口論など構造的問題には一切、触れていませんが、「借りたカネで投機をする人」が急速に減ってきた、あるいは「買った株が下がって借金を返す必要に迫られ、家を売ろうとしている人」が出てきた、という事実を淡々と報じています。
そしてこの記事も指摘するようにKOSPI(韓国総合株価指数)は1カ月で11%も下がり、信用取引融資の残高は4カ月で15・4%も減少したのです。
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