韓国バブルに崩壊の兆し 不動産が一斉に値下がりも国民は「まだ大丈夫」
「借金して投機する」韓国のバブル経済に崩壊の兆しが見える。2年間も急上昇してきた不動産価格が突然、下がり始めたのだ。「世界的な金融引き締めに加え、人口減少の弊害が表面化した」と韓国観察者の鈴置高史氏は読む。
2年4カ月ぶりに歯止め
鈴置:韓国のマンションの取引価格が下がり始めました。韓国ではマンションが投機の対象なので、「バブル崩壊か」と警戒する向きもあります。
グラフ①をご覧下さい。国土交通部傘下の韓国不動産院が2月4日に発表した「全国住宅価格動向調査 週間マンション価格動向」から作成したものです。
これによると、2022年1月第5週の全国のマンションの取引価格の変動率は前週比で0・0%。2019年9月第3週以来、約2年4カ月ぶりに値上がりに歯止めがかかったのです。
全人口の過半を占める首都圏(ソウル市と京畿道、仁川市)の取引価格は、2019年7月第4週(0・02%減)以来、約2年6カ月ぶりのマイナスとなる0・02%減でした。
全国の先行指標となるソウル市での取引価格は、それよりも1週間早く、1月第4週にマイナスに転じています。1年8カ月ぶりです。第4週、第5週と2週間続けて0・01%の減少を記録しました。
2021年12月の1カ月間の住宅全体の取引量は5万3774件。前月比19・9%減、前年同月比では61・7%減と大きく細りました。12月としてはリーマン・ショック(世界同時金融危機)に襲われた2008年以降となる、小さな取引規模に終わったのです。
ソウルでは5年弱で2・2倍
――「バブル崩壊!」と韓国はパニックに?
鈴置:警戒感は出てはいますが、そこまで行かないのが興味深いところです。韓国人が今、問題にしているのは「不動産価格が上がり過ぎること」なのです。1990年の日本と似ています。当時の日本人も「どうしたら地価を下げられるか」で頭がいっぱいで、「バブルがはぜたらどうなるか」にまで考えが及ばなかったではないですか。
東亜日報の「江南と瑞草もマンション価格の上昇に歯止め」(2月5日、日本語版)から、今の韓国の空気が窺えます。
・政府は、下落が続くことを期待している。洪南基(ホン・ナムギ)経済副首相兼企画財政部長官は前日[2月4日]、「今年に入って、江南区と瑞草区で1億ウォン以上下落した取引が継続して確認されるなど、安定傾向に拍車がかかるだろう」と明らかにした。
「江南区と瑞草区」とはソウルの高級住宅地で、投機の主要舞台です。そこで日本円に換算して1000万円も取引価格が下がった、と言って副首相は胸を張ったのです。
副首相の発言に対し、この記事は「しかし、今回の調査期間は旧正月連休である上、取引件数が激減しており、市場が本格的な下落傾向に差し掛かっていると見るには無理がある」と、政府の「甘い見通し」を批判しました。
これを書いた東亜日報の記者には「バブル崩壊」への恐怖はみじんもなく「政府の無能により、マンション価格が容易に下がらないであろうことへの不満」を表明するのに熱心だったのです。
文在寅(ムン・ジェイン)政権下で、不動産価格がはね上りました。KB国民銀行によると2017年5月の政権発足から2022年1月までの4年8カ月間で、ソウルのマンション価格は2・2倍になりました。建国以来、不動産価格は総じて右肩上がり。韓国社会には「絶対に下がらない」不動産への神話が染みついているのです。
人口バブルに乗った文在寅
――なぜ、文在寅政権下で不動産価格が急騰したのでしょうか。
鈴置:根本的には人口要因と思います。人口がピークアウトする直前にはバブルが発生する可能性が高い。働く人が増えますからカネ余り現象が起きて、それが株式市場や不動産市場に流れ込むのです。
そして、ピークアウトした直後からバブル崩壊が始まります。働く人が減れば、株式などに投資されていたおカネが現金化されるからです。
日本のバブルも、働く年代の人口を示す生産年齢人口(15―64歳)がピークアウトした1995年の少し前に発生、崩壊しています。
韓国の生産年齢人口は2018年が頂点でした。総人口は2020年にピークアウトしました。実際に働いている人と、働く意欲を持ちながら職が無い人を合計した経済活動人口は2023年にピークを迎えると韓国の雇用労働部は予想しています。
いずれのデータを見ても、文在寅政権の任期(2017年5月―2022年5月)前後が人口のピークです。「人口バブル」に乗った政権だったのです。
今後の韓国の生産年齢人口の減り方は急と見られています。日本がピークの1995年から1割減るのに20年かかったのに対し、韓国では10年と見込まれています。
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