「おいハンサム!!」特筆するほどでもない日常が染みる“脱力系ホームドラマ”のわびさび

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 タイトルと断片的な情報から想像したのは「吉田鋼太郎演じる父が、カワイイ娘たちにたかるイケメンどもの首根っこを掴み、片っ端からバリトンボイスで叱り飛ばす」絵ヅラだ。だって「おいハンサム!!」だよ?! まさか鋼太郎がハンサムとは思わず。想像を超えてきた時点で「これ、好き」と。

 このハンサムの由来もいい。些末なことを真顔で話す父を母(MEGUMI)が「いい顔して何言ってんの」と茶化したところ、幼い娘たちが「いい顔=ハンサム」ととらえて、父を揶揄するときの定番ワードになった。あるある、こういう家族内隠語というか、他人に説明するのが面倒臭い割に、大した話でなくオチもない由来の呼称や言語が。我が家にもある。「ぴゅーぱーぷー」と言えば「ぺろぺろぺっぺっぺ~」と返す謎の合言葉。父は認知症になっても合言葉だけは覚えている。発端は父なのだが、由来は至極アホらしいので、割愛。

 鋼太郎とMEGUMIの夫婦、独立した長女(木南晴夏)、嫁いだ次女(佐久間由衣)、独立したはずが戻ってきた三女(武田玲奈)の3人の娘。この伊藤家の面々が繰り広げるホームドラマだが、とにかく些末なエピソードが山盛り。それがちょっとずつ繋がり、後からジワジワ沁みていく。私が好きなのは大繁盛そば屋(梅沢昌代)の描写。地味だが丁寧な仕事が客を呼ぶという話(無粋な説明はナシ)。でも家族愛とか絆とか思いやりを無理強いするものではなく、あるよね~の100本ノック。好き嫌いは分かれるが私は好き。肌に合う。

 鋼太郎が素敵な父親かというと、そんなこともない。父が娘の男運の悪さに口を出すなんて論外だし、「伊藤家リモート会議招集」っつって全員を呼び出すのもどうかと思う。思うけれど、鋼太郎の持論(飲食店で烏龍茶に金を払いたくない、ハエトリグモは殺さないなど)には共感しまくり。

 私はなぜか鋼太郎と一体化してしまうが、誰かの母である人はMEGUMIの「夫のトリセツ」に共感するかもしれない。誰かの娘である人は、恋や仕事や配偶者でつまづいている三者三様の娘たちに思いを寄せるかもしれない。それぞれの些末な感情と、特筆するほどでもない日常をみっちり描いているせいか満足度も高い。

 鋼太郎に圧はあっても威厳はない。ハンサムで説法しても呆れる娘たちは塩対応、母も適当に突き放す大人対応。でも暗喩の多い説法って、弱っている心の隙間にスッと入ってきたり、時間差で効いてくることがあるなあとしみじみ。

 娘たちの恋模様に登場する男性陣はクセ強め。三女にはドリーマーな裸族の須藤蓮やモラハラ確信犯の高杉真宙、次女には問題行動の多い夫・桐山漣。長女の元彼は気配りも仕事もできるが、どうやら難ありの浜野謙太。野波麻帆や山中聡、藤田朋子など、脇の脇で顔出すキャラも無駄に濃いめ。

 派手な仕掛けも展開もないが、人生のわびさびと少量の毒をそこそこ配合。大人というか中年層には響く。そういえば、Eurythmicsの曲も懐かしくて悶えた。まんまと狙い撃ちされた気分。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年2月10日号掲載

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