1200億円の資産運用が支えるゲーム会社の成長――襟川恵子(コーエーテクモHD代表取締役会長)【佐藤優の頂上対決】

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自分で考える習慣

佐藤 買い始めた時、原資はどうされたのですか。

襟川 私には兄弟も従兄弟もいません。だからお小遣いやお年玉が半端じゃなかった。しかも小学2年生で歯科医だった父を亡くしています。可哀想な子ということで、多額なお年玉や、ちょっと何かお手伝いすると、お小遣いをたくさんいただけたんです。それを全部貯めていましたから、かなりの貯金がありました。

佐藤 株をやるには勉強も必要でしょう。

襟川 新聞や海外のニュース、投資関連の記事など、世の中の流れをつかむようにしましたね。投資は若い時から始めたほうがいいです。相場観が培われますし、社会勉強にもなる。

佐藤 自分のお金が関係しているとなると、ニュースの見え方が違ってきますよね。

襟川 若い頃、仕手戦に加わったこともあります。でも、買っているうちに急に空売りが始まって、大損しました。足利にいた頃で、ラジオたんぱをつけっぱなしにして株価情報を聞いていましたね。あの時、あんな短期決戦をやってはダメだと、身に染みました。そうやって失敗しながら学んでいったんです。

佐藤 襟川会長は、何でも自分で考え、自分で一つひとつ道を切り開いてきたという感じですね。

襟川 父もいなかったし、アラブの言葉に「脳みそは誰も貸してくれない」という言葉があるじゃないですか。

佐藤 ユダヤ人もそう言います。

襟川 私の母は優しい人で、優しすぎてすぐに人にだまされてしまうような人でした。それで父が亡くなった時、お手伝いさんたちから「恵子ちゃんがしっかりするのよ」と言われて、それが強く記憶に残った。それで自分で考えるという習慣がついたのだと思いますね。

佐藤 会社には、投資部門があるのですか。

襟川 ありません。管理部門の社員も株を買ったことがないし、責任も重いですから、私一人で売買しています。昼間はいろいろ仕事がありますから、まず夜にアメリカの市場の動きを見て、指値を決めて、次の日の仕事の合間に注文を出す。

佐藤 取引のための時間を作っているわけでもない。

襟川 片手間ですよ。ネットの情報や投資関連のレポート、アナリストのレポートなども取り寄せてチェックはします。でもやっぱり株に関しては勘が重要で、ここで損切りしようとか、倍、買っておこうとか、そのタイミングは自分で考えるしかない。

佐藤 「襟川恵子銘柄」と呼ばれるものまであるそうですね。

襟川 証券会社がそう言っているんでしょうかね。昨年は日本の株は弱かったので、米国株が多くなりました。中国株は政策によって状況が大きく変わってしまいますので、投資には不向きです。

佐藤 日本でも株価は政権と大きく連動します。民主党政権時代は、日経平均株価が8千円台まで下がったことがありました。

襟川 あれはひどかった。政権運営の経験がないので無理です。でもいまの自民党の、予算の割り振り後の使われ方にも問題がある。方向性は良くてもチェック機能を設けながら進まないと、垂れ流しで効果が出ない。優れた政治家や役人はいますが、経営者であった人は皆無です。デジタル化でソフトを作ってもバージョンごとにユーザビリティー(使いやすさ)をチェックして修正しながら作らないと、多額の予算をかけて、はい、できました、でも2%の人しか使っていない。となります。

佐藤 政府は本当にデジタルに弱いですよね。

襟川 企業経営者やビジネスの世界で活躍した政治家が日本にはいないことが不幸です。しばらくの間、その穴埋めは日本のトップマネジメントの方々にご健闘いただき、大いに収益を上げていきましょう。

襟川恵子(えりかわけいこ) コーエーテクモHD代表取締役会長
1949年神奈川県生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒。73年に結婚した襟川陽一氏とともに78年、光栄(現コーエーテクモゲームス)設立。99年社長、2001年会長、06年取締役名誉会長。09年テクモと経営統合を図りコーエーテクモHD設立、代表取締役会長に。21年、懇意の孫正義会長率いるソフトバンクグループ社外取締役にも就任。

週刊新潮 2022年2月3日号掲載

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