1200億円の資産運用が支えるゲーム会社の成長――襟川恵子(コーエーテクモHD代表取締役会長)【佐藤優の頂上対決】
1200億円を動かす
佐藤 その一方で、襟川さんは女性投資家としても知られています。会社の資産を運用することによっても、会社を支えている。
襟川 ゲームは制作に時間がかかり、売れ行きが悪い時もあって、アップダウンの幅が大きいことがある。そこで売り上げが下がった時には、株の収益でカバーするようにしているんです。
佐藤 1200億円という巨額の資金を運用されていると聞きました。主に株式ですか。
襟川 はい、株式は投資経験が長いですから。日米の株、それに債券、仕組債が中心です。
佐藤 令和3年3月期の決算では、過去最高となる393億円の経常利益のうち、149億円が有価証券売却による利益です。
襟川 おかげさまで、一度は退いた襟川が社長に復帰して11期連続で増益です。店頭登録以来、無借金経営で、赤字もリストラもありません。
佐藤 襟川会長はいつから株式売買を始められたのですか。
襟川 美大に入った頃には始めていましたね。
佐藤 それはずいぶんと早い。どんなきっかけがあったのですか。
襟川 やはり祖父母がやっていたからでしょうね。5、6歳の頃、父方の祖父母の別荘に行くと、古い革の四角いトランクケースがあったんです。祖母はその埃を払ったり磨いたりしながら、「ここには昔、満鉄(南満洲鉄道株式会社)の株がぎっしり詰まっていたのよ。でも戦争でゼロになってしまった」と言っていた。株が何だかわからない中で、その時、祖母がすごく損をしたんだということだけ印象に残った。それが株にまつわる最初の記憶です。
佐藤 資産家だったのですね。
襟川 そんなこともないです。ただ家の中では普通に株の話が出てくるような環境でした。祖母は、普段から、株で損をする人はバカよ、と言っていた。上がったり下がったりするけれども、長く持っていれば必ず上がるという信念を持っていました。まあ、当時は高度成長期でしたから。
佐藤 初めて買った株は何ですか。
襟川 記憶にないですね。成長力の高い株を買えばいいんだと単純に考え、証券会社まで行ったことは覚えています。当時は、どの家庭でもペットを飼い始めたので、東京畜犬という会社の株を買おうとしたんです。
佐藤 東京畜犬、ありましたね。昔、テレビでコマーシャルもやっていました。
襟川 でも上場していなかったから買えなかったんです。たぶん最初に買ったのは、叔父が勤めていた建設会社あたりだと思うんですけども。
佐藤 先ほど話に出た任天堂の株も持っていらしたそうですね。
襟川 会社を作る時に売りましたが、当時400円くらいでした。ずっと後で買い戻しましたが。
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