AIで脳の不老不死を実現なら… 専門家が語る「ゆっくり開発」する重要性とは

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AIによる「死の克服」

 私はそうしないほうがいいように思います。なぜなら、恋愛は「身体性」を伴った価値観の表れのひとつだからです。頭で考えるだけでなく、身体性に基づき全身で感じ取った直感をあわせ、あなたはAさんを求めたのです。そうした判断をもAIに委ねてしまったら、人間に不可欠な身体性まで損なわれてしまうことになります。暗算・筆算力が鈍ることと、身体性そのものが鈍ることを同列に扱ってよいのか甚だ疑問です。

 ファッションに無頓着な私は、面倒くさいので毎日着る服はぜひAIに選んでもらいたい。しかし、ファッションにこだわりがあり、日々の服装選びは自分の直感に関わる大事な問題という人であれば、それはAIに任せるべきではありません。

 身体性の議論の延長で言うと、今、AIによる「死の克服」が議論されています。「マインド・アップローディング」と呼ばれるもので、人間の脳をAIによって読み取り、それをコンピューター上にアップすることで、身体とは別にその人の脳は延々と生き続けられるという「不老不死」の技術です。

 原理的に不可能だと言う人もいますが、私は可能だと思っています。そうなった場合、残る問題はそれが望ましいのかということです。

技術開発には「対抗手段」が必須

 今、私たちは何かに成功すれば喜び、失敗したら悲しみます。それは「死を前提とした生」を生きているからです。限られた人生だからこそ、失敗したらもう取り返せないと嘆く。しかし不老不死となった場合、永遠に時間はあるわけですから、失敗しようが成功しようが何の意味もないことになります。そこに、果たして人生の価値があるのかどうか。有限の生を土台としない価値観を、人類は構築することができるのか。これは「人間観」の根本的な転換です。そのような転換が本当に可能なのか想像すらつきません。まあ、「そんな難題はすぐに解決できないから、不老不死になって無限の時間を手に入れてからゆっくり考えよう」という考え方もあるわけですが……。

 マインド・リーディングにしても、マインド・アップローディングにしても、無自覚に進めて行き着くところまで行き着いてしまうと、引き返せないほど深刻な事態になってしまう危険性がある。したがって、これまで論じてきたように倫理的、道徳的な議論と並行して技術開発を進めていく必要があるわけですが、同時に、新しい技術をつくる時には必ず「対抗手段」もつくっておくことが大事です。原子力発電には核廃棄物の処理の仕方がセットとして必要であるように、今まで指摘してきたAIの問題に関する対抗策の同時開発が不可欠と言えます。

 AIが人類の知能を超える転換点「シンギュラリティ(技術的特異点)」を提唱したアメリカのレイ・カーツワイル博士は、新技術のデメリットはさらなる新技術開発で解決できるという技術礼賛者で楽観論者ですが、彼であっても、同時に対抗策を開発すべきだと繰り返し指摘しています。

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