AIで脳の不老不死を実現なら… 専門家が語る「ゆっくり開発」する重要性とは
人間は火を使うサルである。すなわち、道具や技術を使いこなしてこそのホモサピエンスなのだ。そう、単に「使う」だけでなく上手に「使いこなす」ことが大事なのだが……。AI全盛時代を迎えようとしている今、我々はその真の意味を理解できているのだろうか。
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AI(人工知能)の技術が進歩して、例えば植物状態にある人の脳の信号を読み解き、コミュニケーションがとれるようになったとしたら、それはとても素晴らしいことです。
しかし残念ながら、歴史を振り返ってみると、誰かが新しい技術を開発しても、その当初の開発目的だけに沿って新技術が使われてきた例はほとんどありません。ダイナマイトしかり、原子力しかりです。そして幸か不幸か、人間には作れるものは作ってしまう性(さが)があります。
つまり、植物状態の人とのコミュニケーションが実現するというベネフィットだけを見て野放図に開発を進めてしまうと、これまでの技術同様、AIも悪用される危険性を孕(はら)んでいることを考えなければいけません。
しかも、自ら手順や判断基準を見つけ出す「自律性(オートノミー)」をAIが獲得した時、AIの危険性はそれまでとレベルが違い、想像を絶するものになる恐れがあります。今すぐの話ではありません。しかし10年後から20年後には、AIの自律性獲得という難問に人類は間違いなく直面するはずです。
新時代の人間観
〈こう警鐘を鳴らすのは、心と脳の関係を探究し、科学哲学を専門とする東京大学の信原幸弘名誉教授だ。
AIを使ったマッチングアプリで結婚相手を探す。昔ながらの対面のお見合いに比べると随分と効率的だ。
便利な世の中である。
藤井聡太棋士は、AIによる将棋ソフトを使いこなして研究に励み、史上最年少四冠の座を掴み取った。
便利な世の中である。
中国政府はAIを駆使し新疆(しんきょう)ウイグル自治区の監視を強化しているという。
便利な世の中である、中国政府にとって。
そして1月14日、皇居で行われた講書始の儀では、天皇陛下をはじめとする皇族方がAIに関する講義を受けられた。
まさに「AIの時代」が到来しようとしている。
冒頭に出てきた脳の信号を読み解く話、いわゆるテレパシーの技術開発も絵空事ではなく、昨年、内閣府が推進し、関連予算30億円という規模で2050年の実現を目指してスタートしている。
「機械」である科学技術と、「人間」の脳や心の関わり方を問い続けている信原教授は、そんな新時代に向け、今こそ一度立ち止まって冷静に議論すべきだと説く。信原教授が以下に続ける「AI観」、それはすなわち「新時代の人間観」を問い直すよいきっかけとなりそうだ。〉
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