「賞金が男性と同じでなければボイコット」 性差別と闘い女子プロテニス協会を設立したキング夫人の半生(小林信也)
元王者からの挑戦状
だが、それですっかり男女同権が実現したわけではない。他の大会の賞金には依然として格差があり、一方で男子選手からは男女が同じに扱われる流れに不満の声も高まった。
そんな状況に目をつけ、女王たちに挑戦状を叩きつけたのが55歳の元王者ボビー・リッグスだった。ギャンブル好きのリッグスは、多額の賞金を提示して、まずはコート夫人から対戦の同意を得た。73年5月13日、母の日に開催された〝男女対抗試合〟は全米の関心を集めた。55歳とはいえリッグスは39年のウィンブルドン、39、41年の全米を制したレジェンドだ。年齢の衰えを指摘する世間の予想を覆し、リッグスはコート夫人に6─2、6─1で完勝する。現役の女王が、元チャンプとはいえ“老いぼれ”に負けた。やはり、女性は男性にかなわない。そんな印象が世間を覆った。
勢いづいたリッグスはキング夫人に対決を求め、メディアも使って激しく挑発した。当初は応じる気のなかったキング夫人だが、女子テニスの威信が崩れかけた状況下では逃げるわけにいかなくなった。
9月20日、「性別間の闘い(バトル・オブ・ザ・セクシーズ)」と銘打ってヒューストンのアストロドームで行われた対決に3万人を超える大観衆が集まった。テレビでも中継された。「男の強さを見せつける」と意気込むリッグスと、「女性が男性と同じ地位を獲得するための闘い」に挑むキング夫人。負けたら男女同権の実現は遠のくだろう。絶対に負けられない真剣勝負だ。
映画にも描かれているが、この試合で彼女を深く支えた人物がふたりいる。夫のラリー・キングと、自分が同性愛者であることに気づかせてくれたガールフレンドだ。この試合の条件は、男子と同じ5セットマッチ。人間として、女性としての目覚めと、激しく揺れ動く葛藤の中で、キング夫人はリッグスを6─4、6─3、6─3のストレートで退け、女性の地位向上の勢いを加速させた。
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