三谷史観で北条政子は悪女か聖女か…「鎌倉殿の13人」を盛り上げる3人の女優たち
三谷史観の面白さ
絶滅寸前である時代劇ならではの醍醐味だった。現代劇ならスマホで一瞬にして事が済んでしまう。
白い布は頼朝と八重が密会を重ねていたころ、相手に「今夜会いたい」と伝える時の合図。それを頼朝から聞いた北条義時(小栗旬、39)は八重の意図を瞬時に読み取った。
「今夜、出陣せよという合図です! 山木は館にいます!」(義時)
八重は平家側である父の立場を忘れた訳ではない。だが、頼朝は敗れたらクビをはねられる恐れが大きい。時政が言うところの「首ちょんぱ」(第1話)である。八重は迷った末、愛しい人に加勢した。
この八重の働きを記した史書は見当たらない。反面、それを打ち消す材料もない。「頼朝と八重の間柄」と「北条の館と江間の館の位置関係」から推量された三谷史観である。痛快だった。
八重はちょっとコワイ
さらに三谷史観では八重の日常の大半は頼朝ウォッチングに費やされている。江間の館は山の上にあり、対岸の北条の館は丸見えだから、ずっと見ている。まるで監視員のように。頼朝を一途に思っているからとはいえ、ちょっとコワイ。
八重は頼朝を思う余り、奇想天外なロジックも振り回し、義時を混乱させる。
「(頼朝は)お幸せなんですか?」(八重)
「ええ」(義時)
「私にはそうは見えない」(八重)
「そんなことはないと思いますが……」(義時)
「政子様とはうまくいってないのですね?」(八重)
「びっくりするほど、うまくいっています」(義時)
「かわいそうに」(八重)
おい、おい……。自分が聞きたくない言葉は耳に入らない。一筋縄ではいかない女性である。
それでいて悪意の人ではないので、難しい役に違いないが、ガッキーが好演している。愛らしい人になっている。
八重役についてガッキーは放送前にこう語っていた。
「つらい宿命を抱えながらも心に宿した愛を生涯失うことがなかった、ある意味では秘めた強さを持った女性なのではないかと想像します」(NHKの公式発表文より)
この言葉通りの女性になっている。
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